諸概念の迷宮(Things got frantic)

歴史とは何か。それは「専有(occupation)=自由(liberty)」と「消費(demand)=生産(Supply)」と「実証主義(positivism)=権威主義(Authoritarianism)」「敵友主義=適応主義(Snobbism)」を巡る虚々実々の駆け引きの積み重ねではなかったか。その部分だけ抽出して並べると、一体どんな歴史観が浮かび上がってくるのか。はてさて全体像はどうなるやら。

「TV系サイバーパンク」という不思議なジャンル

 サイバーパンク・ムーブメント(Cyberpunk Movement)は概ね1980年に始まったとされています。

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サイバーパンク(Cyberpunk)の原点

サイバーパンク」という用語は、アメリカの作家ブルース・ベスキが1980年の短編小説の題名として使ったのが最初であり、情報化時代特有の洞察に影響を受けたパンク世代を指す用語として提案したものである。この用語がすぐさま、ウィリアム・ギブスンブルース・スターリング、ジョン・シャーリー、ルーディ・ラッカー、マイクル・スワンウィック、パット・キャディガン、ルイス・シャイナー、リチャード・キャドリーといった作家の作品の総称として使われるようになった。

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  • SF作家でもあり、ファンジン編集者でもある Lawrence Person はポストサイバーパンクを定義する過程で、サイバーパンクの特徴を次のようにまとめている。「古典的なサイバーパンクの登場人物は時代から取り残され、たいていディストピア的な未来社会の周辺に住んでいる。その世界は急速なテクノロジーの進歩や、コンピュータ化された情報網の遍在化や人体改造といったものが日常生活に影響を及ぼしている社会である。

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  • パンクというサブカルチャーのジャンルとしてサイバーパンクを位置づけることには議論の余地があり、特にサイバーパンクの定義が定まっていないことが問題である。例えば、サイバーゴスというムーブメントはサイバーパンク小説とテーマを共有しつつパンクやゴスなどの影響を受けているが、より一般的なサイバーカルチャーは定義がさらに曖昧で、仮想共同体やサイバースペースといった概念を含み、未来への楽観的期待を含んでいる。

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それにもかかわらずサイバーパンクは成功したジャンルと見なされており、多くの新たな読者を惹きつけ、ポストモダン文芸評論家が好むようなムーブメントを形成した。作家デイヴィッド・ブリンは、サイバーパンクがSFをより魅力的にし、主流のメディアやビジュアルアート一般でも扱えるような高収益なものにしたと主張している。

しかしその歴史を辿ると「おや?」と思うことが一つ。

  • 最初の契機となったのはパーソナル・コンピューターが発売され「コンピューター=政府や大企業の所有する大型機」という既成概念が崩れた事。そして1970年代まではLSDの様なドラッグによる意識革命を提唱してきた米国心理学者ティモシー・リアリー博士(Timothy Francis Leary, 1920年〜1996年)が1980年代に入ってからは「コンピューターによる脳の再プログラミング」を提唱する様になった事とされている。
    *実際「クローム襲撃(Burning Chrome、1982年)」を上梓したウィリアム・ギブスン(William Ford Gibson、1948年〜
    )は、ティモシー・リアリー当人から直接示唆を受けてサイバーパンク小説の執筆に着手した事実を認めている。
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  • ここで興味深いのが、歴史のその時点において既にサイバースペース(cyber space)へのジャックイン(Jack-in)」の元概念が存在したという事。ちなみにティモシー・リアリー博士自身は「個人レベルでのインナー・スペースの進化」にしか関心がなかったし、ブルース・スターリングサイバーパンク・ムーブメントに「インナー・スペースを進化させた人間の登場は社会にどういう影響を与えるか」とか「インナー・スペースを進化させた人間の集まりはどんな社会を形成するか」といった社会学的見地を付加するのはまだ先の話となる。

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  • その源流はヒッピー文化にまで遡る。海賊ラジオ放送者、「電話回線の無断使用者(Phreaks=Phone+Freaks)」、そしてロックンロール音楽のライブ会場でドラッグに陶酔しながらサイケデリックなスライドショーを眺め乱行する「マルチメディア・パーティ(Multimedia party)」。ただしこれだけではまだまだ足りない。
    「電話回線の無断使用者(Phreaks=Phone+Freaks)」Apple社を創設したスティーブ・ジョブズやスティーブ・ウォズニアクもその一員。逮捕されるリスクがある事を大半のヒッピーは気にもとめていなかった。

    *「マルチメディア・パーティ(Multimedia party)」…元来「Jack In」とは何かを投げ出したり、学校や会社を辞めてしまうこと。その言葉に「没入=現実世界からの完全逃避」というニュアンスが付加されたのはこれが契機とも。

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実は当時のヒッピー達が、なまじ手も足も出ないばっかりに憧れ続けた事…それは「TV放送網へのハッキング」だったのです。その背景には「カリスマ宣教師がTV番組を通じてキリスト教原理主義者を急増させていく状況」への嫉妬心もあったとも。

そして、まさにその妄執こそが「サイバースペース(cyber space)へのジャックイン(Jack-in)」なる概念の元イメージになったとも。ただしそこにたどり着くまでの前史が長いです。

堺三保 ウィリアム・ギブソンの「スプロール三部作」や「攻殻機動隊」みたいなコンピューターネットワークのイメージを膨らませたSFは当然あるんだけど、あれは現実のコンピューターとはまったく関係がない。

 まさにその通り。意外なのは、この分野で日本は最初から先行していたという事実。

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日本のテレビ放送の歴史(1929年〜1969年)

1929年 - 英国放送協会BBC)がテレビ実験放送開始。


1931年 - NHK技術研究所でテレビの研究開始。

1932年8月 - イギリスで世界初の定期試験放送(機械式、週4日)開始。

1935年 - ドイツで定期試験放送開始。ベルリンオリンピックのテレビ中継が行われる。

1939年3月 - 日本でテレビ実験放送開始。

1939年5月13日 - NHK放送技術研究所による公開実験。

1940年4月13日 - 日本初のテレビドラマ「夕餉前」の実験放送。

1941年3月 - 米国でNTSC方式の白黒テレビ放送開始。

1945年 - 「日本のテレビの父」と言われる高柳健次郎らによって戦前より始められていた日本のテレビ研究が敗戦直後にGHQにより禁止される。

1946年 - 7月に禁止令が解除され、11月よりNHKがテレビ研究を再開。

1950年 - 電波法、放送法電波監理委員会設置法の電波 3法施行。

1951年 - GHQの要請により電波監理委員会メンバーが視察のため渡米。
アメリカから3人のコンサルタントが来日。軍事戦略のひとつとして占領国でのテレビ放送利用を重要視していたアメリカの圧力によりアメリカ式の技術標準が日本で採用される。

1953年

  • 1月 - シャープが国産第1号のテレビTV3-14Tを発売。
    *価格は175,000円。続いて松下電器・ナショナル(現在のパナソニック)の製品が販売される。当時、輸入品のテレビで17インチが25万円、21インチで35万円。公務員の初任給が8,700円、中堅サラリーマンの月給約3万円程度だった時代。

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  • 2月1日 - 日本放送協会NHK)のテレビ放送開始
    *日本での地上波テレビ放送の開始。
  • 8月28日 - 日本テレビ、テレビ放送開始(民放での初のテレビ放送の開始)。またテレビ画面が裏返しに映る日本初の放送事故が発生した。
    *当時の主な番組は大相撲、プロレス、プロ野球などのスポーツ中継や、記録映画など。白米10kgが680円、銭湯の入浴料が15円程度であった当時、テレビ受像機の価格が非常に高価(20万〜30万円程度)で一般人には買えないため、多くの大衆は繁華街や主要駅などに設置された街頭テレビや、土地の名士などの一部の富裕世帯宅、喫茶店、そば屋などが客寄せに設置したテレビを見ていた。

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  • 12月 - 米国でNTSC方式のカラーテレビ放送規格の成立。

1954年1月23日 - アメリNBCが、NTSC方式によるカラー本放送開始。

1955年4月1日 - ラジオ東京(KRT・KRテレビ、現:TBSテレビ)がテレビ放送開始。

1956年12月 - NHKのカラーテレビ実験放送開始(UHF帯を使用)。

1957年

1958年12月23日 - 東京タワーから放送開始。

1959年
*前年1958年からこの年にかけて多くの局が開設され、4月10日の皇太子明仁親王今上天皇)御成婚の中継をきっかけにテレビ受像機が一般に普及し始める。同時期に、JNNを始めとするニュースネットワークが結成される。

  • 1月10日 - NHK教育テレビジョン開局。
  • 2月1日 - 日本教育テレビ(NET、現:テレビ朝日)開局。
    *日本では当初、教育分野へのテレビ利用が検討された為に、教育局、準教育局として開設される局が多かった。
  • 3月1日 - フジテレビ(略称:CX)開局。
    *この頃より、東映を除く映画会社が、テレビへの作品販売や所属俳優の出演を拒否したため、代替としてアメリカ製のホームドラマや西部劇などのテレビ映画が大量に輸入され、各局の主力番組として放送された。この状況は1970年頃まで続き、高い人気を得た作品も少なくない。

1960年9月10日 - カラー本放送開始(NHK=東京、大阪の総合、教育両テレビ、日本テレビ、TBS、読売テレビ朝日放送)。日立製作所、国産カラーテレビ「ポンパ」を発売。キャッチコピーは「色は日立の御家芸」。

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1962年 - テレビ普及台数が1000万台を超える(普及率約50%)。1969年には普及率90%に到達。

1964年4月12日 - 財団法人日本科学技術振興財団テレビ局開局(通称:東京12チャンネル、別名:科学テレビ、略称:TX、後に東京12チャンネルを経てテレビ東京)。

1967年 - PAL・SECAM方式によるカラー放送開始。

1968年

1969年 - 日本のテレビ受像機生産台数が世界1位になる。

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石ノ森章太郎 「テレビ小僧(1959年~1962年)」

「テレビ小僧」ことテレちゃんは、日本一のテレビスターになりたい一心んで日の丸テレビに押しかけ、撮影現場に住み着いてしまう。しかも持ち前の短気が災いし、参加した番組をことごとく滅茶苦茶にしてしまう。

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最終年発表分はPTAの「子供向けコンテンツから銃や刀といった武器を追放しよう運動」の揶揄で彩られている。PTAはテレビ番組に「銃や刀の使用」を禁止させる事に成功すると味をしめ、音楽を流したり芸術作品を映す事まで禁じてしまう。隠して完全に出番を失った「テレビ小僧」ことテレちゃんは、アメリカ人に(ライカ犬の如く)人工衛星に乗せられる実験動物として売り渡され、宇宙の藻屑と消えていく。

*「サイボーグ009シリーズ(1964年〜2012年)」に先行する「流星エンド」?

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 *詳細は明かされていないが、こうした動きはおそらく東映が(大人の事情かライバル配給会社の手回しで)看板映画「多羅尾伴内シリーズ(1946年〜1960年)」と「七色仮面(1959年〜1960年)」「アラーの使者(1960年)」と続いてきた「二丁拳銃ヒーロー」路線を打ち切った事と密接な関係がある。そして以降暫くの間、子供向けTV番組の世界は「(秘密基地で博士が製造してくれる武器らしくない)秘密兵器を駆使して戦う少年探偵」ばかりとなった。そういう状況を背景に米国TVドラマ「コンバット!(1962年〜1967年)」や、その日本版を目指したTVドラマ「忍者部隊月光(1964年〜1966年)」の快進撃が続く事になる。

 水木しげる「テレビくん(1965年)」

石ノ森章太郎 「テレビ小僧(1959年~1962年)」は物理的にTV局に押し掛けて勝手に住み着いただけだが、この物語の主人公は「テレビ生物」を媒介に催眠術めいた方法を駆使して受像機経由で放送電波網に没入(Jack In)し、TV局のシステムに侵入してカメラの被写体に物理的に介入する事が出来る。おそらく世界初の「サイバーパンク漫画」?
*ただノワール要素はない。商品を盗んでもかえって「販促になる」と喜ばれるばかりで義賊的要素もない。

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 K・W・ジーター「Dr. Adder(執筆1974年頃、刊行1984年)」

この世界においては、TVに映る映像は全てデジタイズ化された上で電脳世界で再構成された電子的存在。そこを支配するのは他人の潜在意識を読み取ってその精神を支配下に置く能力に長けたサイコパス気質の天才科学者であり、取り込んだ人間全てを全人格的に隷属化に置いている。「純粋なる正義の体現者」を目指す偏執狂でもあり、それ故にまずは自ら去勢し、次いで肉体そのものを放棄して現在の形態に至る。

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これに対抗するのは同じサイコパス気質の悪徳医師。彼の片手は神経が直結して自在に動かせる義手(フラッシュグラブ)であり、これを介してテレビ放映網経由で電脳世界に侵入する技術に長けた「生まれつき盲目の少女」と「薬物」の助けを借りて電脳世界への没入(Jack In)を果たす。
*「生まれつき盲目の少女」…おそらく「最初の電話回線無断使用者(Phreaks=Phone+Freaks)」ジョイバブルことジョセフ・カール・エングレシア・ジュニア辺りがモデル。生まれつき全盲だった彼は電話回線網を流れるアナログ信号の構造を必死で解析し、遂には口笛だけで基幹回線に到達し海外電話まで掛けられる様になった。
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「薬物」…人間の意識と意識を直結させる効果があり、意志力の強い側が弱い側を全人格的に従えたり、その心の中を覗いたり出来る様になる。

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脱稿直後にフィリップ・K・ディックから「これまでこの世界でにおいて執筆されたどんな小説よりも猥褻」「これで足の裏に毛の生えた小人ばかりの世界から脱却出来る」などと絶賛する序文が寄稿されたが、この作品を特徴付ける性描写と暴力描写の過激さゆえに、出版してくれる出版社を見つけるまで約10年の歳月を必要とした。

デヴィッド・クローネンバーグ監督「スキャナーズ(Scanners,1981年)」

主人公は過去の記憶を失い「他人の考えが自分の頭の中に入ってくる」症状のせいで真っ当な生活の送れない35歳の浮浪者。超能力者(スキャナー)研究所に保護され、謎の鎮静剤エフェメロルを注射されて初めて「人間の神経系統と神経系統を融合させ、相手の心拍数も呼吸量も記憶も思いのままにする能力」が制御可能となる。
スキャナー同士だと、能力の高い方が相手を好き勝手に出来る。そして主人公は最高級の素質の持ち主。

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この能力は電話回線網経由でも相手に影響を及ぼす事が出来る。それにモデムで接続されたコンピューターに侵入してハードディスクに記録されたデータを盗んだり、CPUを暴走させて大爆発を引き起こす事も可能。

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ウィリアム・ギブスン「クローム襲撃(Burning Chrome、1982年)」 

サイバースペース(cyber space)上に存在するマトリックス(データシステム相互関係の抽象表現にして「人類の神経」)へのアクセス自体は万人に保障されている。ただし重要なデータ(暗闇の中に一際明るい島宇宙を形成している)ほど強力なICE(Intrusion Countermeasures Electronics:侵入対抗電子機器)に守られている。迂闊に没入(Jack In)すると問答無用で脳髄を焼かれて死に至る場合すらある(Black ICE伝説)。
*発表は「記憶屋ジョニー(Johnny Mnemonic、1981年)」の方が早いが、残念ながらこの作品にサイバースペース(cyber space)への没入(Jack In)場面はない。代わりに麻薬中毒のサイボーグ・イルカによる「記憶屋」の記憶のサルベージ作業があるのみ(しかも数行)。映画版となる「JM(Johnny Mnemonic、1995年)」はこの部、完全差し替え、

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だが、主人公達はたまたまニューヨークの故買屋でソ連製の高性能な軍事用プログラム(見た目は自動小銃の弾倉そっくりで、一度スロットに突っ込んで使うと溶けて跡形も無くなってしまう)を入手した。それで必要な負荷に耐えられる特製の操作卓(Console)を厳選した部品で組み上げ、一世一代の賭けに出る。
*もしかしたら主人公の「片腕義手の男」は、ロバート・A・ハインライン月は無慈悲な夜の女王(The Moon Is a Harsh Mistress 1965年〜1966年)」か K・W・ジーター「Dr. Adder(執筆1974年頃、刊行1984年)」辺りへのオマージュなのかも。あるいは(15次元のマトリクスに区切られた世界でケルト色の強い種族闘争が繰り広げられる)マイケル・ムアコック紅衣の公子コルム・シリーズ(The Chronicles of Corum6冊、1971年〜1974年)」だったりして。

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英国TVドラマ「マックス・ヘッドルーム(Max Headroom、1984年〜1987年)」

そこは「20分後の未来」と呼ばれる世界。ありとあらゆる場所に電源スイッチのない、消すと法律で罰せられるテレビが設置されている。それらは監視カメラも兼ねており視聴者の反応を撮影して本部に送っている。そして政治・経済などあらゆる物事がテレビの視聴率によって決定される。
*この世界は総人口は3億とされ、全体的に荒廃している(スモークを焚いて見通しを悪くしたりして表現)。都市部の人々は過密な雑居ビルに住まい、自由を求めて社会保障を捨てた人々は荒れ果てた『外辺』に住無我どちらも強度のテレビ漬けの生活を送っている点は同じ。ちなみに同種の設定がK.W.ジーター「グラス・ハンマー(The Glass Hammer、1985年)」にも採用されている。ヒッピー世代は案外テレビ好き?

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世界には数千のテレビネットワークが存在し視聴率を競っているが、中でも「ネットワーク23」はトップクラスを誇っていた。
*番組のテーマはTVによる総白痴化、マスメディアの知る権利とプライバシーの問題、企業の利益追求と倫理、ニュースのエンターテインメント化や報道過熱によるやらせや捏造など。ビジュアルとしてはポップでパンクであるにもかかわらず、テレビドラマとしてはいささか重い内容で、そのためか2シーズン目の途中で打ち切りになり最終話は制作されただけで放映されなかった。

そこで自分の名前を冠した調査報道番組を任されている敏腕レポーター、エディスン・カーターは、視聴者の連続変死事件を追っている。しかし局上層部から取材を差し止められてしまう。黒幕は社長のグロスマン。ブライス・リンチ(企画開発部門チーフを務める天才少年)が開発した、ザッピング阻止の為のCM圧縮技術「ブリップバート」を導入すると視聴率そのものは上げるものの、一定確率で視聴者が爆裂死を遂げる事実を隠し通さねばならないからだったっだ。
*やがてこのナードの天才少年は人間性に目覚める、その辺りは1990年代〜2000年代のトレンドを先取りしたプロットとも。

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エディスンは新しいレポーターコントローラー、シオラ・ジョーンズの指示のもと、ブライスの存在に肉迫。ブリップバートの副作用が何を引き起こすか収めた映も目の当たりにする。しかし録画には失敗し、エディスン自身も捕まってしまう。
*強度の監視社会だがセキュリティは甘く、レポーターコントローラーにはこれをハッキング出来る技量の持ち主が就任する。そして警備員の数を教えたり、取材対象の位置情報を割り出して突撃取材を後援するのである。

グロスバーグの命令を受けたブライスは、エディスンがどこまで知っているか割り出そうと、コンピューターでエディスンの記憶を引き出して数値化、再構成する。かくてエディスンの分身、人格を持ったコンピュータグラフィックス、マックス・ヘッドルームが誕生する。

*なお、マックス・ヘッドルームとは「Max Headroom」(高さ制限)の事で、地下駐車場の規制バーに頭を打ち付けて気絶するエディスンが最後に見た物であり、その記憶から再構成されたマックスが最初に繰り返し口走った事に由来するが、これは、いわゆる「トーキングヘッド(Talking Head、テレビや映画の)画面に登場する話し手。米国TVの業界用語では「クローズアップ」)」を意味する「マックスの頭の部屋」との洒落も入っている。

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作中のハイテク機器は、すべてレトロな雰囲気である。コンピュータの端末はストロークが深いタイプライターのキーボードであり、マウスやウィンドウシステムといったGUIは登場せず、登場人物がキーボードを高速でタイピングしハッキングをする。コンピュータのディスプレイやTV受像機なども液晶・フラットパネルどころか、ブラウン管で角が丸い。1980年代からみても古典の部類の表示デバイスで揃えられている。

桂正和電影少女(ビデオガール、1989年〜1992年)

ピュア(純粋)な心の持ち主にしか見えないレンタルビデオ店の貸し出す特殊なビデオテープから少女(ビデオガール)が実体として現れ、恋に悩む少年を助けるという物語。「TVの中に入り(Jack-In)ネットワークを伝う」のでなく「TVの外に実体が現れる(Jack-Out)」ケースは珍しい。

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元来ヒーロー物やSFを好む桂は恋愛漫画の執筆に当初はあまり乗り気ではなく、せめてもの抵抗としてありがちな恋愛漫画を避けることを画策。少年誌の恋愛漫画のお約束だった「主人公の表情と間で考えや気持ちを読み取ってもらう」方法を避け、その逆に「細かくリアルに心理描写を描き出す」方法で女性読者にも共感を与え「男なのになぜ女の子の気持ちがわかるのか」と尋ねるファンレターが届いている。教育評論家の斎藤次郎はこうした心理描写を「少女漫画顔負け」と評しラブコメディとしてちゃかさずに恋愛を描いた本作を「少年誌初の『恋愛漫画』」と表現した。しかしリアリティ追求は行動のリアリティにも繋がり、男女交際の当然の帰結としてベッドシーンといった過激な性描写へと繋がっていく。ただし「キスまで」という少年誌的な制約は厳しく「裸を出さずにエッチに描く」事でリアリティのある展開を際どく達成。それでもこうした描写はたびたび問題とされ、単行本に収録される際の修正・単行本発行後の修正(3・5・6巻では初版と重版で異なる部分がある)・山口県での第3巻の有害図書指定と、当時強まっていた漫画に対する表現規制のあおりを直接受けた。こうした「裸体描写を抑えながらも過激度を上げる」というギリギリの表現方法は、以降も桂作品である「エム」や『I"s』などにも継承されていく。

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士郎正宗攻殻機動隊シリーズ(Ghost in the Shell、1989年〜)」

脳内にナノマシンを注入し、それを介してサイバースペース(cyber space)に接続する。 ナノマシン定着が悪くサイバースペースに入れない人もいて、そのハンデを補う為に身体を部分義体化してデータ入力速度を引き上げたりしている。
*一応21世紀に入ってからもボロを出さないで済んでる手堅い設定。

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 鈴木光司「リング・シリーズ(1991年〜)」

このシリーズには「超能力者の幽霊」山村貞子が登場する。

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  • 原作版「リング(1991年)」では「見た者を呪殺する「呪いのビデオ」の念写者と推察される人物」に過ぎなかったが、映画版「リング(1998年)」では「呪いのビデオ」の画像から黒髪を振り乱した姿で当人が這い出し、大人気となった。
    *この系譜では続編として「リング2(1999年)」「リング0 バースデイ(2000年)」「ザ・リング(The Ring 、2002年)」「ザ・リング2(The Ring Two、2005年)」また映画版よりは原作寄りの日韓合作映画「リング・ウィルス(The Ring Virus、1999年)」のようなリメイクも存在する。

     

  • 原作版「らせん(1995年)」では呪いの正体はビデオ鑑賞者の網膜より体内に侵入し、宿主の意識を読んで感染に手を貸さなかった場合は死に至らしめるウイルスとされる。その一方で貞子当人も高速度妊娠によって「女性を妊娠させたり、自ら複製を妊娠したり出来る新人類」として復活。映画版「らせん(1998年)」はこうした原作に比較的忠実な内容となっている。

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  • 原作版「ループ(1998年)」ではその起源がコンピューター・ウイルスだったと明らかとなり、現実世界と仮想世界の邂逅が描かれる。
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山村貞子の正体は作品によってまちまち。そこから上掲の展開と関係ある部分だけ抽出するとこんな感じ?
*ちなみにルディ・ラッカーのサイバーパンク四部作「ソフトウェア(Software、1982年)」「ウェットウェア(Wetware、1988年)」「フリーウェア(Freeware、1997年)」「リアルウェア(Realware、2000年)」には「現実世界と仮想世界の邂逅」や「高速妊娠による急速増殖」といったこのシリーズと重なる要素が見受けられる。

 しかし皮肉にも1880年代から1890年代におけるコンピューター使用者の急速な量的増大は新たな展開を引き起こしてしまいます。

  • 「コンピューター素人のサイバーパンク作家の脱落」…物理学者でプログラム面でも凄腕のハッカーたるルディ・ラッカー(物理シミュレーションに不可欠なので覚えたらしい)は残ったが、ブルース・スターリングウィリアム・ギブスン柾悟郎らが勢いをなくすとジャンル全体も衰退に向かう。
    *おそらくノワール色が薄れてしまったのが印象の変わってしまった最大の原因かと。

  • 「コンピューター・リテラシー格差の拡大」…ただ単にプログラム制作者と純粋利用者の分離が進んだだけでなく、シリコンバレー文化の延長線上で「User(純粋利用者)はLoser(勝者に盲従するしかない敗北者)」とするエリート主義が密かに広まっている。これをどう扱うかがサイバーパンク文学の次の課題とも。
    *おそらくサイバーパンク文学で重要だったのは「コンピュータ化された情報網の遍在化」そのものというより「(それによって)富や情報や技術の偏在にアクセス可能になったかどうか?」だったのである。しかも「俺が不平等を解消してやる」なんて義賊的スタンスは決してとらない。その一方で怖くて「俺が成り代わってやる」と胸を張る事すらできず、実際一番肝心の部分でドジを踏む事も多い。全盛期にはそういう作品が次々と発表されていた気がする。

ちなみに検索したら海外には「日本が技術面でとるに足らなくなったからサイバーパンク文学も衰退した」という指摘もあって吃驚。

Black Ice & Mirrorshades: An Introduction to Cyberpunk

http://image.slidesharecdn.com/black-ice-mirrorshades-an-introduction-to-cyberpunk-1195086511850502-3/95/black-ice-mirrorshades-an-introduction-to-cyberpunk-5-728.jpg?cb=1195057713

守るべき根幹はむしろ「Techno-noir(技術暗黒小説?)」の部分?