海外アニメファンの吃驚するところは「スタジオジブリ」の原点を「フライト・オブ・ドラゴン(The Flight of Dragons、1982年)」「ラストユニコーン (The Last Unicorn、1982年)」などをランキン・バス・プロダクションから下請けしたトップクラフトと考え、その延長線上において新海誠作品や京都アニメーション作品を掌握してる辺り。
実はこういう観点からも、雲田はるこ「昭和元禄落語心中(2010年〜2016年、アニメ化2016年〜2017年)」は、以前から気になっていた作品でした。何故なら確実に「国際SNSの関心空間上の最大勢力たる女子アカウント集団に選ばれた作品の一つ」だったからです。
物凄い事にタイトルに掲示される「昭和元禄」の文字が飾りではありません。
雲田はるこ「昭和元禄落語心中(2010年〜2016年、アニメ化2016年〜2017年)」
八雲「いつみてもいいお庭ですなぁ。親分さんのご趣味の良さには感服いたします」
ヤクザの親分「師匠に褒めていただけりゃ、ただの道楽も報われますよ。お師匠、引退ってのは本当ですかい?」
八雲「こりゃ耳障りを失礼。まったく狭い街です。けどまぁガキどもが中々許してくれませんので」
ヤクザの親分「俺もさっさと引退しちまいてぇんだけど、倅が頼りなくて困ってるんです。あの野郎、果ては跡目は継がねぇなんて言い出しやがって…ヤクザなんてもう流行らねぇんだって。まったく無粋な法律作られちまって、みかじめも取れねぇわ、景気は悪ィやですっかり肩身が狭くなっちまった。この家だって何時まで住めるか…昔は守り守られでトントンだったんだ。今は人が薄情になった。俺達みてぇのが、もういらなくなったって事か…ヤクザってのは見栄を張りてェ生き物ですから、お師匠にこの庭を見といて頂きたくてお呼び立てしたんです」
八雲「さいですか。全く味気ねぇ時代ですなぁ」
ヤクザの親分「俺がいなくなりゃ、うちの組みなんて終わりでしょう。たった一人がいなくなるだけで駄目になる組織は作るべきじゃなかった。とにかく俺は組を大きくする事ばかりに夢中で、下の事なんて何も見てやれなかった…その報いでしょうなぁ」
八雲「そういう目の上のたんこぶみてぇな人は必要ですよ。居るだけで秩序を生む。それが伝統になっていくんです」
まさしく「巨人・大鵬・卵焼き」の時代にひっそりと忘れ去られていった何かを的確に捉えている上、あえてそれへのノスタルジーを掻き立て様としない冷徹な筆致…
夕食時、高校生娘「友達が昭和元禄落語心中見てから、落語聞いてみたいって言ってるんだけど」
— ぬえ (@yosinotennin) 2017年5月18日
大学生息子「うちにあるCDかDVD貸せば」
娘「CD再生する機械ないんだって。私は落語は生じゃないなら、映像よりも音だけのほうが好きなんだよね」
息子「あー、俺も」
楽しく悩んでいるようだ…
*海外では年齢若めの女子アカウントが多いせいか、終盤間際での小雪の登場にどよめいていたのが印象的だった。やはり年が近いと自己投影もしやすい?
ちなみに「昭和元禄落語心中」のファン層は森見登美彦「有頂天家族シリーズ(原作2007年/2015年、アニメ化2013年/2017年)」のファン層とも重なってきます。実はこの系列、国際SNS上でも最古参級にして最大派閥級だったりして。
森見登美彦「有頂天家族・二代目の帰朝(原作2015年、アニメ化2017年)」
狸に天狗の悩みは分からず、天狗に狸の悩みは分からぬ。
天狗には天狗の誇りがあり、狸には狸の矜持がある。
それゆえに、天狗の血と阿呆の血は響き合う。ふいに二代目が、まるで恥じらう乙女のような小声で言った。
「我々は友人になれるだろうか?」
「ありがたいお言葉ですが、そいつは無理な相談です」
「……なぜかね?」
「なぜなら私は狸ですから。天狗は狸をいじめるものです」
すると二代目はにっこりと笑った。前年の春に帰国して以来、二代目がそんな爽やかな笑顔を見せるのは初めてのことであった。
「ユニークだ。君はじつにユニークだ」
「ありがとうございます」
久米田康治「さよなら絶望先生(原作2005年〜2012年、アニメ化2007年〜2009年)」
*2000年代における国際SNS上の関心空間の前身は現在よりはるかに少数精鋭のカルト集団といった色彩が強かったのである。そうした層に選ばれた。
竹宮ゆゆこ「とらドラ!(2006年〜2009年、アニメ化2008年〜2009年)」
*この頃からディズニー系恋愛至上主義の女子アカウントの流入が始まる。ちなみに作中における「私の幸せは!私がこの手で! この手だけで掴み取るんだ! 私にはなにが幸せか、 私以外のだけにも決めさせねぇ!」はフェミニズム第三世代のモットーそのもので、そういうメッセージ性を作中に盛り込んだホームドラマを当時のアメリカは供給出来ていなかった。
久米田康治、ヤス(「とらドラ!」のイラスト担当)「じょしらく(2009年〜2013年、アニメ化2012年)」
*アニメ版のエンディングがロンドンのDJの間でまで音源の一つとして採用されたのは吉田兄弟の早弾きツイン三味線の音色が国際的に気に入られたからだったが、完全な誤解から始まったBaby Metalのプロモーションも相応に成功。ただし後者を受容したのは全く別の客層(スケーターとかその辺り)だった。ちなみに「昭和元禄落語心中」に先駆ける形で林家しん平が落語監修を手掛けている。
こう考えていくと「久米田康治のファン層が、彼がキャラクター原案を手掛けた「有頂天家族」を発見した」なんて図式の重要性が浮かび上がって来ます。さらには彼女達、坂口安吾「桜の森の満開の下(原作1947年、アニメ化2009年)」のアニメ版もまた喜んで回覧してましたっけ。
こうして手間暇かけて「海外の昭和元禄落語心中ファン層」は準備されてきたとも。