「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー(Rogue One: A Star Wars Story、2016年)」で一番驚いたのは、コンピューター環境が1960年代レベルに設定されていた事でした。確実に撮り直しがあった箇所だしその際に仕込まれたネタかもしれないのですが…
- 惑星「スカリフ」の帝国軍データ保管庫「シタデル(The Citadel)」。そこのデータ・タワー内に収納された情報は小型ストレージに小分けされ、マジックハンドで出し入れされる。
*旧予告編にも登場するし、おそらくこの設定は最初からあったと推測されている。 - シールドが掛かった状態では、デススターの設計図転送に必要なトラフィックが確保出来ない(送信波を強めればかろうじて音声通信は成立するレベル)。
*ここら辺りから微妙。再撮影以降の追加設定かもしれない?
- どうやら実際の通信を担当するのは"Communication Server"らしい。IMPの一種とも見て取れるが、それと対となるメイン・コンピューターが存在しているかまでは不明。
*IMP(Interface Message Processor)…実験段階のAlphaNetにおいてメイン・コンピューターに負荷を掛けない為に併設された通信処理専用のミニコン。Hubの前身に当たる。
完成までに色々あった作品なので、どこでそう確定したかわからない部分もあるんですが…
そもそも「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望(STAR WARS EPISODE IV A NEW HOPE、1977年)」において「現段階で想像可能だったコンピュータなど登場させても、すぐ古臭くなる」という判断を下したジョージ・ルーカス監督からして只者じゃありません(会話の中には出てくる)。それに加えて「その環境に登場させてもおかしくない感じのレトロなコンピュータ環境」を全くゼロから創造した「ローグワン」のデザイン・チームもなかなかの凄腕。
2001:A Space Odyssey(1968年) | Tumblr
The Andromeda Strain(1971年) | Tumblr
まぁ全ての設定は「あのデータ・リレー」を格好良く引き立てる為だけに用意された訳で、普通の人はこんなに細かい設定なんて気にもしないとは思いますが…この「それまで存在すらしてなかったのに、登場した途端、ピッタリ収まるべきところに収まる感じ」こそが「ローグワン」を読み解く鍵じゃないかと思った次第。
その一方で「スターウォーズ・シリーズ」には「(陰鬱なシリアス作品が次々と玉砕した)絶望の1970年代後半」から「(明るく壮大な物語が次々と大ヒットする)希望の1980年代前半」の橋渡しをした側面があったりします。
当時は逆にそれを「凋落」と見る向きもあった様ですが。
1970年代作品を特徴付けるのは、とにかく「厳しい父親(あるいはそれに類する存在)と、それに対峙する「息子」の愛憎劇」が多かった事です。
- まぁそれがアメリカン・ニューシネマ(New Hollywood)を支えたヒッピー達の求めていた物語だったのである。
- 角川春樹が原作の日本語版を手掛け、いわゆる「角川商法」樹立に向けて最初の一歩を踏み出したエリック・シーガル原作作品「ラブ・ストーリー―ある愛の詩(Love story、1970年)」もそういう物語。彼が次いで横溝正史作品を選んだのも、その多くが「旧家における家族間の愛憎劇」だったからといわれている。
- フランシス・コッポラ監督作品「ゴッド・ファーザー(The Godfather、1972年)」もシシリアン・マフィアであるコルレオーネ一家内の愛憎劇だった。
ジョージ・ルーカス監督作品「スターウォーズ・シリーズ」もこの流れはしっかり継承。その部分を 「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー(Rogue One: A Star Wars Story、2016年)」がどう料理したかというと…「父親と息子が対峙する愛憎劇」から「父親と娘が信頼し合う物語」に差し替える形をとったのでした。
帝国軍技師ゲイレン・アーソ(Galen Erso)(ジン・アーソ(Jyn Erso)の実父)
「これから何が起ころうと、お前を守る為だ(Whatever I do it protect you)」
Sirenja and the Stag • When was the last time you were in contact with...
反乱軍急進派ソウ・ゲレラ(Saw Gerrera)(ジン・アーソ(Jyn Erso)の「養父」)
*クローン戦争時代からの歴戦の勇士で、当時アソーカ・タノ(暗黒面に落ちる以前のアナキン・スカイウォーカーのパダワンだったジェダイ)に助けられて生き残れる戦い方を教わった。素行不良で善人とも悪人ともつかない人物だが、ゲイレン・アーソと協力し合いながら「アナキンの善意のフォースの流れ」を反乱軍に伝える役割を果たす。
Evil Museum Owner, The world is coming undone.
ベイル・オーガナ(Bail Organa)議員(レイア姫(Princess Leia)の養父)
「私は彼女に全幅の信頼を置いてるよ(I would trust her with my life.)」
そして名前がオランダ語で父親を意味するベーダー卿(Darth Vader)…この物語の時点のレイア姫は彼が実父である事も、彼の「善意のフォースの残滓」こそが全てのミッションの始まりだった事も知りません。
I Did A Little Research... You're A Whore
ちなみにダース・ベイダーの声を演じたジェームズ・アール・ジョーンズ(James Earl Jones)は「コナン・ザ・グレート(Conan the Barbarian、1982年)」でシュワルツネッガー演じる英雄コナンの「養父」となる魔術師タルサドームも演じた「暗黒面に落ちた冷酷な父親のベテラン」だったりします。その辺の面影がソウ・ゲレラに投影されているという話も。
こうした「娘二人に父親四人」という複雑な構成になったのなぜでしょうか。どうやら「ローグワン」には、この物語の挿入によって「(1970年代と1980年代の架け橋となった)スターウォーズ・シリーズ」をさらに現代に通用する物語として蘇らせようという意図もあった様なのです。一言でいうと…「Star Wars Ladies 結成計画」? 全員で「I am one with the force,the force is with me…」を唱えながら輪になって踊る?
*国際SNS上の関心空間における投稿、これまで回覧数が心もとなかったけど、キャリー・フィッシャー訃報で一気にカウンターが回ってる…冗談どころじゃなくなってきた?
Mara (not) Jade — my shot / hamilton original broadway cast
ㅤㅤ ㅤ ㅤ Okay, hotshot. - — And you know heroes make the best legends.
love is friendship set on fire
背後にディズニーの影を感じますね。それ善意の方のフォース? それとも…
実は1980年代はフェミニズム運動にとってちょうど「第二世代」と「第三世代」の分かれ目に当たっていて、米国ではこの時期を境に女性の思考様式がガラリと変わってしまう為、どちらの層も納得させるには「娘二人に父親四人」という構成にせざるを得なかったという説も。
それでは、こうした配慮に対する国際SNS上の関心空間における女子アカウントの反応はというと…なんと「もうクレニック司令官(Orson Krennic)もジンのパパの一人でいいんじゃね?」といった反応が。そういえば中の人(ベン・メンデルソーン:Ben Mendelsohn)は「ダークナイト ライジング(The Dark Knight Rises、2012年)」でも、似た様な「巨悪に翻弄される小物」を演じてました。米国だけでなく日本にも熱狂的な固定ファンがいるらしい…
Einstein took Science, We took Hardyness - Roland Daggett | Director Orson Krennic
ベンメンデルソーンの可愛さたるや!動画が見た〜〜い!https://t.co/MQ9G9Jqcdg pic.twitter.com/ug6vlLLL7i
— yuki@心の中はローグワン (@oasisyuki) 2016年12月26日
ここまでくると、もはや集団的に「絶対、制作側の意図通りになんて踊らない」と心に決めてるとしか思えません。いずれにせよレイア姫の物語はまだまだ続きます…
『スター・ウォーズ エピソード8』はすでに撮り終えてポスプロ段階、レイア姫のシリーズでの役割はそこで終了の運び、とバラエティ誌。ともかく1年後に公開のエピソード8で、キャリー・フィッシャーのレイア姫をまた見られるのですね。 https://t.co/rGKKUNBr2I
— Erika Toh (藤えりか) (@erika_asahi) 2016年12月27日
改めてキャリー・フィッシャーさんのご冥福をお祈りさせて頂きます。
would you shut up about lando
その一方で男子アカウントの人気を集めてるのは…
K2SO「おめでとう。君は救出された。無駄な抵抗はやめなさい」
what the fuck is your problem, poppy?
K2SO「私も君と行く。船長に従って」
Einstein took Science, We took Hardyness - Rogue One: A Star Wars Story → I’ll be there for...
K2SO「メリークリスマスを言わせてもらうよ。船長に従って」
意外と見逃されがちな事実:動揺すると目が泳ぐ
考えてみたらローグワンの中で一番「私は為すべき事をするだけ。人がどう思われようが知った事じゃない」的な「男らしさ」を体現してたキャラだったとも。