どうやら国際SNS上の関心空間においてDisney Princessファン層に匹敵するStar Wars Ladiesファン層が形成されつつある模様。
SO THIS IS A THING IVE BEEN WORKING ON. Alphonse... - CannonFodder
まぁメンバーは概ね重なってるみたいなんですが…Star Wars Ladiesの「中の人」は基本的に同一タイプですが、国際SNS上の関心空間における女子アカウントの反応は「だがそれがいい」といった感じ。
その一方でジョージ・ルーカス監督作品「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望(STAR WARS EPISODE IV A NEW HOPE、1977年)」の基本アイディアは、黒澤明監督作品「隠し砦の三悪人(1958年)」を元に考えられたと監督自らが回想しています。つまり全てのStar Wars Ladiesの原型は「隠し砦の三悪人」に登場する男勝りに育てられ、それが言動に現れるので正体がばれない様に「唖」の演技まで強要される秋月家の生き残り雪姫かもしれないという話になってくるんですね。
*秋月家の生き残り雪姫…全国から4000人もの応募者が集まったが「気品と野生の二つの要素がかもしだす異様な雰囲気」を満たす候補者が見つからず、全国の東宝系社員にも探させてようやく社員がスカウトした文化女子短期大学生の上原美佐が抜擢された。上原は素人であったので撮影前に馬術と剣道を習い、撮影中はそのつど黒澤が演じてみせ、それに従って演じたという。つまり全てのStar Wars Ladiesの最源流にあったのは、なんと黒澤明監督当人の演技だったという衝撃の事実。
*また雪姫の演出の一部がルーク・スカイウォーカーに回されたとも見て取れる。実際、雪姫に弟が同行していたらルークみたいな感じになっていた? そしてその演出は後のスターウォーズ作品にも継承されていく。そういえばオリジナルからして「(この場面の前後に誰か死ぬ)死亡フラグ」なんだな、これ…
破格の制作費と多彩な物語展開の割に演劇めいた強烈な圧縮演出によって極めてコンパクトにまとめられた「隠し砦の三悪人」に対し、「スター・ウォーズ エピソード4」は大作なりの絢爛豪華さを装うべく、物語的にかなり強引に「解凍」した感があります。
- 「隠し砦の三悪人」は山名家に滅ぼされた秋月家の雪姫を御家再興の為の軍資金と一緒に早川領まで護送する物語。一方「エピソード4」はデススターの設計図を盗み出す過程で捕らえられたレイア姫(Princess Leia)を救出する物語。
I have a bad feeling about this. — Leia before A New Hope (Manip) From being tutored...
- 「隠し砦の三悪人」は狂言回しの百姓コンビの太平と又七が落ち武者狩りと山名家の奴隷労働現場より逃れる場面から始まる。一方「エピソード4」では反乱同盟の巡視艇からC-3POとR2-D2が辺境惑星タトウィーンに降り立つ場面から始まる。しかしすぐにジャワス(Jawas)のドロイド狩りに捕まってルーク・スカイウォーカー(Luke Skywalker)の暮らす砂漠の一軒家に売り払われる。
anime harrison ford: I can’t abide those Jawas! Disgusting creatures.
*そういえば太平と又七は鍋と米俵を分担して背負って携帯していた。これを組み合わせたものがR2-D2の原型イメージ? ただし、どうしそれがフリッツ・ラング監督/制作脚本テア・フォン・ハルボウ作品「メトロポリス(Metropolis、1927年)」に登場する「偽マリア(C-3POの原型イメージ)」とセットにされたかまでは分からない。
Rays of Cinema — THE HIDDEN FORTRESS (1958) Directed by Akira...
you're my only ho. - 「隠し砦の三悪人」では秋月家の埋蔵金の痕跡を発見した太平と又七がそれを追ううちに山賊めいた服装の秋月家の侍大将・真壁六郎太に発見され隠し砦に導かれる。一方「エピソード4」ではデススター設計図を隠し持ったC-3POとR2-D2がルークの手を借りて「砂漠の隠者」オビ=ワン・ケノービ(Obi One Kenobi)の行方を探す。途中略奪部族タスケン・レイダー(Tusken Raiders)に襲われるも、何とかオビワンの隠れ家に到達。
- 「隠し砦の三悪人」では山名家の追っ手が迫る。真壁六郎太は妹の小冬を姫の身代わりとして差し出すが、それでも追及の手は止まず、隠し砦は覚悟を決めて残留した秋月家残党ごと焼かれてしまう。一方「エピソード4」では帝国軍の追跡隊がまずジャワスの移動集落を、次いでルークが留守中の自宅を家族ごと焼いてしまう。そればかりかデススターがレイア姫の養父ベイル・オーガナ(Bail Prestor Organa)が統治する惑星オルデラン(Alderaan)を破壊する。
Jake Bartok: Art & Design — Here are two paintings I did in mid 2016 that I...
*スターウォーズで最もキツい設定、それは惑星オルデランがなまじ非武装中立を貫いた平和主義惑星だったが故に「反撃を恐れる事なく威力誇示が可能な絶好の舞台」と帝国側に認識され、真っ先にてデススターの標的として破壊されてしまう事だろう。おそらくこの発想も「隠し砦の三悪人」における秋月家の命運が出発点となっている。ちなみにこの惑星の先住民は昆虫型エイリアン種族のキリックだったが、母性に未来がないのを察知して全員脱出。死んだのは「人類発祥の地」惑星コルサント(Coruscant)から入植したヒューマノイド型移民ばかりだったらしい。
日本では「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー(Rogue One: A Star Wars Story、2016年)」について(その無差別テロ戦術のせいでベイル・オーガナと決別した)ソウ・ゲレラ(Saw Gerrera)が絶望してデススター 試射からあえて逃げず自殺に近い最後を遂げる展開について「意味がわからない。省略しちゃってOKだろ?」という意見が大半を占めたが、それはこの設定があまり知れ渡っておらず「結局のところベイル・オーガナの非武装中立路線もソウ・ゲレラの無差別テロ戦術も間違っており、その両極端に引き裂かれてしまった反乱同盟の未来は閉ざされた」「だが皮肉にも、帝国軍への 降伏を絶対に許せなかったのはむしろ反乱同盟の暗部に翻弄されてきた日陰者達だったのである」「そしてベイル・オーガナもソウ・ゲレラも最終判断を「娘達」に委ねる」「そして全ての動きがデススター設計図を盗み出してデススターを破壊する試みへと収束していく」という解釈が出回らなかったせいとも。
Evil Museum Owner, The world is coming undone.
また「身代わり設定」は「エピソード1」におけるパドメ・アミダラ(Padmé Amidala Naberrie)女王のそれに転用され「(正体が発覚しない様に唖同然の状態を貫く)身代わり」も生き延びる展開に。
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「隠し砦の三悪人」では真壁六郎太が「欲の皮の突っ張った」太平と又七を秋月家の隠し金を運び出す労働力として利用する。一方「エピソード4」ではオビ=ワン・ケノービが「欲の皮の突っ張った」ハン・ソロ船長とチューバッカの所持船ミレニアム・ファルコン号を惑星タトウィーンを脱出してデススター設計図を反乱同盟の本拠地に運ぶ足として雇う。
*ジョージ・ルーカス監督は日本人以上に真剣に「椿三十郎」で国家老が口にした「(椿三十郎みたいなタイプに) 城勤めは無理だ」という山本周五郎の原作「日々平安」にもあるセリフを重く受け止め、これを最後には体裁よく秋月家から追い出される太平と又七と結びつけて考えたのかもしれない。そして何より「エピソード4」は(ハリウッド大作には不可欠で)「隠し砦の三悪人」には存在しない恋愛要素を必要としていたのである。
Star Wars: The Force Awakens (2015) | Raiders of the Lost Tumblr
I don't need luck, I have you - 「隠し砦の三悪人」においては、結局姫一行は関所で山名家の手勢に捕捉され、真壁六郎太が宿敵たる山名の侍大将・田所兵衛に一騎打ちを挑んで時間を稼ぐ。一方「エピソード4」ではミレニアム・ファルコン号がデススターに捕捉されてしまい、オビ=ワン・ケノービがダース・ベーダー(Darth Vader)に一騎打ちを挑んで(たまたま救出されたレイア姫とデススター設計図を隠し持つ)脱出のチャンスを生み出す。
*「隠し砦の三悪人」における真壁六郎太の行動は一貫して忠義心に基づくが、ダース・ベーダーに一騎打ちを挑んだオビ=ワン・ケノービの心境は「弟子を育てそこなった師匠のけじめ」「新たな希望たるルークを守る為」といったさらに複雑な心境を含む。また「隠し砦の三悪人」では結局姫一行は捕縛されてしまい、主君に見切りをつけた田所兵衛に救出されるが、この展開は「エピソード6」において「息子ルークの危機に接っして父性を回復したダース・ベーダーが銀河皇帝を倒す」展開に転用されたとも。
Always Star Wars, The Death Star - Concept art by Ralph McQuarrie
- 「隠し砦の三悪人」においては、太平と又七のドジが 何度も姫君一行に危機をもたらす。一方「エピソード4」ではデススターから脱出したミレニアム・ファルコン号に取り付けられた発信装置のせいで反乱同盟の本拠地がヤヴィン第4衛星(Yavin 4)と知れてしまう。
*「エピソード4」はここから「デススターが破壊されるか、逆にヤヴィン第4衛星が破壊されるか」反乱連盟と帝国軍が競い合うクライマックス場面に突入。
- 「隠し砦の三悪人」においては、最終的に早川領に到達した姫一行が正装に着替えて太平と又七に褒美をとらせ、故郷に返す。一方「エピソード4」ではデススター破壊を祝して祝賀式典が開かれる。
こうして綿密に付き合わせてみると色々浮かび上がってくる点が。
- 何だかんだいいながら「隠し砦の三悪人」は1950年代の作品であり、日本人の観点から見ても古臭過ぎて海外に通用しないと分かる箇所がある。具体的には「(妹を姫の身代わりに差し出して 死に至らしめる真壁六郎太や、時間稼ぎの為に隠し砦に篭って玉砕する家臣団が見せる)平然と死を選ぶ忠誠心」「(百姓故に冒険を共にした仲ながら太平と又七は褒美をもらって故郷に返されるだけという)絶対的身分感覚」「ロマンス要素皆無」など。ジョージ・ルーカス監督は「スターウォーズ」を1977年のアメリカに通用するエンターテイメント作品に仕立て上げる為、こうした要素を巧みに除去し、それぞれ「別の何か」に差し替えている。これぞ正しい意味での「伝統の継承」。
- ところで「スターウォーズ」から上掲の要素を全て取り除くとルーク・スカイウォーカーを巡るこんな物語だけが残る。
①昔々ある辺境惑星に夢見る技術オタク少年がいました。
②ところがある時、帝国軍と反乱連盟の戦争が向こうからやってきたのです。そして少年は、いつもの様に買い漁ってきたスクラップ寸前のガラクタ・ドロイドに隠された秘密を発端として、囚われた姫君の存在、デススター設計図を反乱同盟本拠地惑星まで届ける任務、そして自分が世界に選ばれたフォース感応者である事実を知ります。
③そしてなんと少年は技術オタクとして磨いてきた操縦技術と射撃技術、さらにはフォース感応能力まで駆使して姫君救出ミッションやデススター破壊ミッションで重要な役割を果たし、反乱同盟の「新たな希望」となったのでした。
*考えてみれば「デススターに捕捉された際、ハンソロの金銭欲を刺激してレイア姫救出ミッションを成立させた」のもルークの御手柄?
なんたる中二病でセカイ系な世界観!!(ただし1990年代以前の旧タイプ)。しかも舞台は無数のエイリアンが雑居し、誰もが宇宙船で飛び回るオタクの夢空間!!
実際「Star Wars」のFirst Trailerは本当に「少年と少女と宇宙…沢山のロボットとエイリアン」と語っている。
この路線の無謀をまず責めたのは同じ映画人達だった。彼らの大半もルーカスと同じくらい黒澤明監督作品ファンだったから上掲の様な分析を経て「何が残るか」容易に弾き出せた筈である。そしてそれは明らかに1960年代後半のニューウェーブ運動以降の「(社会を危機感で揺さぶる)大人向けScience Fiction」の展開に完全に逆行する流れだったので「こんな作品が成功する筈がない」と断言したとも。
スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望 - Wikipedia
製作時、ほとんどの関係者は「毛むくじゃらの猿(チューバッカ)が二足歩行しているし、ヒロインは変な団子を付けているし、変な映画だな」などと思ったという。中には「ゴミ映画だ」とぼやいたカメラマンもいたほどだった。ルーカスが、スピルバーグやブライアン・デ・パルマなどの友人たちを招いて自宅で完成前のラッシュ試写を行った際には、気まずい空気が流れ、デ・パルマに「ダース・ベイダーは陳腐な悪玉」「フォースという名の都合のよい便利な魔法」「レイア姫の菓子パンのような三つ編み」「冒頭の長すぎるスーパーインポーズ」などの酷評を受けたが、スピルバーグは「一億ドルは儲かる」と高く評価した。完成後の試写会と同時にそうした低評価の感想は減っていたが、関係者の中では試写中に居眠りをする者もいた。
アメリカの各映画館は当時、子供やマニア向けのB級映画と低く見なして上映することを渋り、配給会社である20世紀フォックスも他の映画作品との抱き合わせる形で売り込みを行わざるを得なかった。そのため完全に自信を失ったルーカスは映画が大失敗すると思い込み、公開当日には自宅に債権者が押しかけてくるのを恐れてハワイ旅行に出かけ、電話もテレビもない別荘に籠っていたという。
本作の失敗を確信していたルーカスは、自身が受け取る本作の収益歩合と、スピルバーグが受け取る『未知との遭遇』の収益歩合を交換しようと持ち掛け、ルーカス本人以上に本作を高く評価していたスピルバーグはこれを了承し、印税の2.5%を交換することにした。公開と同時に大ヒットしたことを、電話のつながらない場所にいるルーカスにいち早く伝えたのもスピルバーグである。結果として『スター・ウォーズ』は『未知との遭遇』を超える大ヒットとなり、現在になってもその印税収入は、スピルバーグに利益をもたらしている。
*みんな「レイア姫の髪型」へのツッコミが半端ない…
come on brain, think of things
しかしながら一般観客の口から「これは「隠し砦の三悪人」の要素と「オタクの夢」を混ぜ合わせたもの」「60年代後半から始まった大人向けSFの流れから見れば時代遅れの展開」といった分析めいた所感が漏れる事はなかった。(私も含めて)当時リアルタイムにこの作品を鑑賞した人間の大半は同じ体験をしている筈である。「次々と供給される情報量と興奮量のあまりの多さにたちまち脳内処理回路がオーバーフローしてしまい(「隠し砦の三悪人」より導入した手堅いガイドラインに従って)物語を追う事しか出来なかった」。 こういうのもある種の「トリミングの勝利」と呼ぶべきなのかもしれない。
- もちろん「脳内処理回路のオーバーフロー」にジョン・ウイリアムズが作曲したあのテーマが多大な貢献をしている事はいうまでもない。
おそらく、ここで思い出すべきは世界恐慌(1929年)以降、ダークな作品一色となった米国映画界において、あえて逆張りを試みて圧倒的勝利を収めたフランク・キャプラ監督とウォルト・ディズニーの先例。
「シンゴジラ」「君の名は」「聲の形」「この世界の片隅に」などが次々とヒットした2016年もまた同様に後世「映画鑑賞体験そのものがパラダイムシフトを起こした年」として思い出される事になるのかもしれません。
それではどんなパラダイムシフトが起こったのか? それが徐々に明らかになってくるのが2017年とも。
日本のシーチキン缶のTVCM(Japanese Star Wars Sea Chicken ad、1978年)
始めて「スターウォーズ」が上映されてからもう38年たつんですよね。あの頃に観た若い人たちが今も卒業せずに喜んでるし、しなくてもいい世の中になった。マンガもアニメも何才になったからって卒業しろとは言われなくなって幸せ。いい時代ですよねえ。
— 水野英子 (@MizunoHideko) 2015年12月18日
スターウォーズが引き起こしたパラダイムシフトは「海底軍艦(1963年)」の宇宙版リメイク「惑星大戦争(1977年)」や深作欣二監督作品「宇宙からのメッセージ(Message from Space、1978年)」やロジャー・ムーア主演作品「007 ムーンレーカー(Moonraker、1979年)」や手塚治虫のパロディ漫画「こじき姫ルンペネラ(1980年)」なども産みました。
その一方で「隠し砦の三悪人(1958年)」には、さらに同じ黒澤明監督映画「虎の尾を踏む男達(制作1944年〜1945年、公開1952年)」のセルフリメイクという側面があったのです。
この連鎖、どこまで続いていくの?