九井諒子「ダンジョン飯(Delicious in Dungeon、2014年〜)」。
実は、国際SNS上の関心空間で最近急に「ポスト鋼の錬金術師」として評価が高まった作品。単行本派なので第4巻発売によって、やっとどういう展開が評価を変えたかのかについて触れる事が出来ました。
九井諒子「ダンジョン飯(Delicious in Dungeon、2014年〜)」
ノームのタンスの奥方(204歳)「ヒナ菊が綺麗ねぇ」
ノームのタンス(210歳)「来るたび豪奢になっとるな、ここは。迷宮の発見以前には下男の一人もいなかった」
ノームのタンスの奥方「村も随分豊かになりました。迷宮がもたらすものは害だけではないのでしょう」
ノームのタンス「どうだかな。この島は欲望で膨らみ切っている。わしにはあの黄金は虫を誘う蜜のように思えるがね」
人間の領主との会話
人間の領主「それでどうだった?」
ノームのタンス「とりたてて気になるところといえば…ガラが悪くなりましたな。地下三階までの財宝はあらかた取り尽くされ、無法者の溜まり場が増えています。加えてオークの集団が浅層に現れ、頻繁に問題を起こしている様子。派兵か懸賞金をかけてもよろしいかと」
人間の領主「ううん…一体どこから入り込んだのやら」
ノームのタンス「ドワーフの古い坑道にでも繋がっていたのではないかと。オークはそういった穴に住み着きます」
人間の領主「ドワーフか、まったく忌々しい。まるでもぐらだ。塞いでも塞いでもそこらじゅう穴だらけ。遥か昔、エルフとドワーフが東西に分かれて争った時代、ドワーフはこの地に潜みエルフが来るのを待ったという。戦争が終わっても穴を掘り続け…やがて黄金の都を飲み込み迷宮と化した。迷宮が拡大を続けているのも奴らの生き残りのせいだと聞くぞ」
ノームのタンス「その節に信憑性はないですが…今回複写した魔法陣です。今まで同様エルフ言語、筆跡からも同一人物と思われる。別の者が手を加えた痕跡は一切ない。迷宮の主、狂乱の魔術師の物である事は間違いないでしょう」
人間の領主「そいつはエルフなのか?」
ノームのタンス「判断はできませんが、人間やドワーフには扱えぬ術かと」
人間の領主「参ったな…」
ノームのタンス「?」
人間の領主「実は先日、西のエルフ達から文が届いた。迷宮は我々の遺産だ、返上しろ、と」
ノームのタンス「何と身勝手な。ドワーフから奪った土地を持て余し、人間に寄越したのは、あちら側ではないか。無視で結構」
人間の領主「一応エルフの王より賜った土地だ。それは出来まい」
ノームのタンス「島ごと奪われますぞ」
人間の領主「それは困る。まだまだ迷宮には莫大な財宝が眠っている筈」
「島主殿、奴らの目的は財宝などではありません。迷宮にかけられた不死の術です。魂を肉体に固定する魔術は今も謎が多い。その謎が解明されれば、その価値は黄金など目ではありません。エルフより先に解明すべきです」
人間の領主「全ての魔法陣を複写して解明しろと?」
ノームのタンス「よいですか、これ程巨大な魔術には設計書が必ずある。それを手に入れなさい。"書"さえ手に入れれば、迷宮でもなんでもくれてやればよろしい。"書"をこちらが所有してると気づけば、エルフもようやく対等に…いや、あなたにひざまづいて話をする気になる筈です」
人間の領主「そ、そうか? で、どこにある?」
ノームのタンス「それはもちろん、迷宮の主が所有しているでしょう」
人間の領主「つまり探索者への支援を地道にしろと?」
ノームのタンス「その通り。魔物の討伐や迷宮からの出土品を買い叩かず、財は貯めず今まで以上に補助を」
人間の領主「わかった、オークに懸賞金をかけよう。エルフへの返事は?」
ノームのタンス「時間を稼ぐお手伝いをしましょう」
炎龍(Red Dragon)の舌打ち音 に体内に蓄えた燃料を発火させる意味合いがあって、これを合図に炎の息を避ける展開や「回復魔法は拷問に使える」「アダマンタイト製の鍋」「ミスリル製の包丁」なんて設定にゲーム脳的に興奮しつつも、思い出したのは荒川弘「鋼の錬金術師(原作2001年〜2010年、アニメ化2003年〜2011年)」の連載最初期には海外アニメ・ファンの間で「これ面白いけど、日本作品だし、割とこじんまりとまとまっちゃう可能性なくね?」なる懸案が囁かれていた事でした。九井諒子「ダンジョン飯(2014年)」も4巻にしてこの壁を超えたかと思うと感慨もひとしお。
*「これ面白いけど、日本作品だし、割とこじんまりとまとまっちゃう可能性なくね?」…逆を言えば、海外のアニメ・ファンが何を日本作品の弱点と考えているか、これで明らかになった側面も。
九井諒子「ダンジョン飯(Delicious in Dungeon、2014年〜)」
ドワーフのセンシ(Snshi)「わしが竜の気を引こう」
人間の騎士のライオス(Lauis)「よせ、危険だ」
センシ「ライオス、もうわかっているだろう? 今までお前が食ってきた魔物の中に死力を尽くさないものがいたか? ここでは食うか食われるか。必死にならなければ食われるのはこっちだ。腹をくくれ!!」
炎龍を倒した後で
センシ「よくやったな、ライオス。本当に炎龍(Red Dragon)を倒しおって」
ライオス「みんなのおかげだ。誰一人欠けてもこの勝ちはなかった」
その後の恒例の試食会の席上で
ハーフフットのチルチャック(Chilchack)「あの状況だ。俺もそれを使うしかなかったと思う。だが独断は駄目だろ。周りの信頼を失う事こそ一番の痛手だぜ」
ライオス「軽率だった。二度としない」
何この堀越耕平「僕のヒーローアカデミア(2014年〜)」みたいな展開。今の国際的トレンドのど真ん中じゃないですか。これまでの「ほのぼの日常物」展開の延長線上でさらっとしたシリアス展開に。でも本当に投稿数と回覧数が飛躍的に伸びたのは蘇ったファリンとマルシルの入浴シーンだったというのが国際SNS上の関心空間らしいといえばらしいところ(女性作家らしく、隠すべきところはちゃんと隠して女性の嫌う「男子に媚びた」エロティズムを排除した描写。それで女性アカウントも回覧に積極参加したのが大きい。百合要素は増えたが、むしろそれを歓迎してる感も)。
まぁ元々「エルフのマルシル(marcille)さん」「ハーフフットのチルチャック(Chilchack)」「ライオスの妹ファリン(farlyn)ちゃん」には相応の女子アカウントの支持がついてました。
Amen, Hallelujah, and Peanutbutter
その上で「この作品の世界観は思うより裏がある」感触が得られたのが最近の人気拡大の鍵になったとも。まぁ、まだあくまで海外では「カルト人気」の域ですが。
九井諒子「ダンジョン飯(Delicious in Dungeon、2014年〜)」
チルチャック「にしてもマルシルめ。ライオス、お前は知っていたのか? あいつが黒魔術を使うなんて」
ライオス「詳しく聞いた事はないが、勉学のために迷宮を見てみたいという事だった」
チルチャック「妙だと思ってたんだ。生活に困ってる風でもないエルフが迷宮に潜るなんて。あいつダークエルフって奴なんじゃないだろうな。面倒な事にならなきゃいいが」
エルフのマルシル「(背後から濡れ髪姿でぬっと現れて)誰がダークエルフだ」
チルチャック「うわーっ、だって無害なら禁忌になってないだろ?」
マルシル「無害? 回復魔法すら拷問に使える。刃物と同じで使い方次第。私は禁術を人の役に立てる為に研究してる。やましい事は何もないよ」
一言で要約すると、ずっと背後にあったのは「エロくなければ生き延びられない。エロいだけでは生き延びる資格がない」ルール?