研究チームの理論では、重力でつぶれていく球状物質をたくさんの層の集まりと見なす。各層は粒子からなり、ある層の粒子を中心へ引き寄せる重力はその層より内側にある物質のエネルギーによって決まる。そのエネルギーから計算できるシュワルツシルト半径は、ホーキング放射によってエネルギーが減っていくため時間とともに小さくなる。
この現象が球状物質のあらゆる所で起きるため、物質全体が収縮し、中身の詰まった高密度な物体ができる。特に一番外側の層はシュワルツシルト半径の外側にあるため、ブラックホールは「通常の星のように表面を持ち、事象の地平面を持たない高密度な物体」だと研究チームは指摘する。また、この理論解析の解には「特異点」(エネルギー密度や時空の曲がりが無限大となるブラックホールの中心)も現れなかったという。
研究を主導した横倉上級研究員は取材に対し「本研究では解析を簡単にするため球状のブラックホールで考えたが、実際のブラックホールは回転している場合が多く、つぶれたまんじゅうのような姿になっている。しかし、自分の他の研究で得られた結果から、回転している場合にも事象の地平面はないのだと考えている」と話す。
ただ、表面とシュワルツシルト半径の差は小さいため、外から見るとこれまで考えられてきたブラックホールと同じように見えるとしている。
ブラックホールに落ちていった情報については「今回の研究では、ブラックホールにリンゴが落下したとしても、リンゴはブラックホールの内部構造の一部となるので、リンゴの情報の居場所が分かる。情報が内部で取りうるパターンを調べると、熱力学から導かれる結果にも一致する」(同)と説明する。ブラックホール内での情報保存の在り方が分かれば、遠い未来には大容量の情報ストレージとしてブラックホールを活用できるかもしれないという。
この話も「人間の認識可能範囲外を跋扈する絶対他者」を巡る私の考察に大きな影響を与えそうなんです。