ここは是非「田中圭一」や「ドリヤス工房」の中の人の意見も聞きたい所。
話題の同人誌の知財高裁判決、同人誌にかかわる方はもちろん、それ以外の方にもかなり面白い判決だと思いますので、簡単にお話ししたいと思います。
— 海老澤美幸 ebisawa_miyuki (@ebisawa_miyuki) 2020年10月9日
わかりやすくするため、いささか正確性に欠ける点もありますがご容赦ください。
ものすごく長文です。
事案はシンプルです。
— 海老澤美幸 ebisawa_miyuki (@ebisawa_miyuki) 2020年10月9日
Xさんが描いた漫画を、Y社がXさんに無断でY社のサイトに掲載しました。そこで、Xさんが著作権侵害を理由に損害賠償を請求した事件です。
ほかと違うのは、Xさんがコミケにも参加する同人作家で、Xさんの漫画が有名なアニメや漫画の設定や登場人物を題材んにした同人漫画なこと。
これは判決分の別表にもまとめられているのですが、Xさんは、たとえば有名な「TIGER&BUNNY」や「刀剣乱舞」「おそ松さん」などを題材にしたBL漫画を描いています。
— 海老澤美幸 ebisawa_miyuki (@ebisawa_miyuki) 2020年10月9日
ネットで見てみたところ、たとえば「おそ松さん」をテーマにしたものは、6人兄弟や髪型、名前などは同一ですが、絵は印象が違います。
そこで、Y社はこう反論します。
— 海老澤美幸 ebisawa_miyuki (@ebisawa_miyuki) 2020年10月9日
「いやいや、だってXさんの漫画、元ネタのキャラクターをパクッてるじゃん。自分が元ネタの著作権を侵害しときながら、こっちに著作権侵害を主張するとか、おかしくね? 裁判所がこれに手を貸したら、違法な同人誌で金儲けすることを認めちゃうことになるよね」
裁判所はなんといったか?
— 海老澤美幸 ebisawa_miyuki (@ebisawa_miyuki) 2020年10月9日
まず、大前提として、Xさんの漫画はXさんが創作したもので著作物であり、Xさんが著作権者であることを認めました。
Y社はこの点を争ったようですが、Xさんが独自に漫画を描いていることはたしかなので、Xさんの著作権が認められることにはさほど争いはないと考えられます。
で、Y社の反論にはこう返しました。
— 海老澤美幸 ebisawa_miyuki (@ebisawa_miyuki) 2020年10月9日
「Xさんが元ネタのキャラクターをパクってるっていうけどさ、そもそもキャラクターは、具体的なアニメの絵そのものじゃなくて、具体的な絵を超えた、みんなが持ってる抽象的なイメージなわけ。つまりキャラクターは創作的な表現じゃないから、著作物じゃないよね」
ここ、むちゃくちゃわかりにくいですよね。
— 海老澤美幸 ebisawa_miyuki (@ebisawa_miyuki) 2020年10月9日
実は、裁判所がここでいってる「キャラクター」は、みなさんがおそらくイメージされてる「キャラクター」とは違うのではないかと思います。
裁判所がいう「キャラクター」は、その登場人物の絵そのものではなく、背後の設定みたいなものですね。
たとえば、ドラえもんを例にとってみましょう。
— 海老澤美幸 ebisawa_miyuki (@ebisawa_miyuki) 2020年10月9日
ドラえもんの設定は、未来からきた猫型ロボット、耳がない、青い…など。
この設定こそが裁判所のいう「キャラクター」です。
この設定をオリジナルに描いても著作権侵害にならないということですね。
ここは混乱しやすいので、ぜひご注意ください。
さて、裁判所の判断に戻りましょう。
— 海老澤美幸 ebisawa_miyuki (@ebisawa_miyuki) 2020年10月9日
裁判所はXさんの漫画の元ネタがシリーズものである点にも触れています。
シリーズものの漫画の場合、前の漫画と後の漫画はテーマや設定、主要な登場人物は見た目や性格は同一で、後の漫画には新しい展開(ストーリー)が付けられるじゃないですか。
そうすると、後の漫画は前の漫画をもとにこれをアレンジしたもの、難しい言葉でいうと二次的著作物なんです。
— 海老澤美幸 ebisawa_miyuki (@ebisawa_miyuki) 2020年10月9日
二次的著作物は、原作に新たな創作性を加えて創られたものをいいます。
たとえば、ある原曲に新たな伴奏をつけて編曲した場合、その編曲は、原曲をもとかなした二次的著作物です。
この場合、編曲て新たに創作したのは伴奏部分になるので、編曲の独自の著作権はこの伴奏部分に発生します。
— 海老澤美幸 ebisawa_miyuki (@ebisawa_miyuki) 2020年10月9日
原曲の著作権はそのまま行き続けるわけですね。
だかは、編曲の著作権を侵害した場合、侵害されてるのは原曲の著作権か、編曲独自の著作権かを分けて考える必要があります。
裁判所もこの点をとらえ、Y社に対し
— 海老澤美幸 ebisawa_miyuki (@ebisawa_miyuki) 2020年10月9日
「Xさんの漫画が元ネタの著作権を侵害してるっていうなら、元ネタのどのシーンか特定してよ。後のアニメなら、後のアニメ独自の創作的な部分を特定する必要があるよね。これを特定してないY社の主張は不十分でしょ」
このあたりはちょっと傍論感があるかもですね。
裁判所の判断は続きます。
— 海老澤美幸 ebisawa_miyuki (@ebisawa_miyuki) 2020年10月9日
「Xさんの漫画と元ネタを比較したけど、主人公の見た目や服など基本的な設定部分以外は似てないよね。結局、Y社の著作権侵害の主張立証は不十分だよね」
裁判所の判断はいよいよまとめへ突入します。
「Xさんの漫画は元ネタの著作権を侵害してないし、仮に侵害してたとしても基本的な設定部分に限られてて、それ以外の部分はXさん独自の著作権が成立してるよね。どっちにしろ、Xさんが、著作権侵害で損害賠償を請求するのはOK」
— 海老澤美幸 ebisawa_miyuki (@ebisawa_miyuki) 2020年10月9日
このほか、わいせつに関しても判断してますが割愛します。
さてさてここからいえるのはこのあたりかと。
— 海老澤美幸 ebisawa_miyuki (@ebisawa_miyuki) 2020年10月9日
・元ネタの設定(裁判所はこれを「キャラクター」といってます。混乱しやすいのでご注意を!)をパクっても著作権侵害にあたらない。
設定なのか表現なのか非常に微妙な判断なことも多く、表現が似ていれば著作権侵害にあたる可能性もあるのでご注意を。
・元ネタの著作権を侵害している場合でも、自己の著作権侵害を理由に損害賠償を請求することは可能。
— 海老澤美幸 ebisawa_miyuki (@ebisawa_miyuki) 2020年10月9日
面白い判決なのでぜひご一読を。https://t.co/9QJBszVuN8
リーディングケースであるポパイ・ネクタイ事件はこちら。https://t.co/INiJwBtweP
先生方、間違いなどご指摘お願いいたします🙇
たくさんの方に読んでいただきありがとうございます。
— 海老澤美幸 ebisawa_miyuki (@ebisawa_miyuki) 2020年10月9日
誤字が多くてすみません🙇
キャラクターについて、やはり勘違いしてる方がいらっしゃるようなので補足を。
裁判所がいっているのは、あくまで、設定(アイデア)は著作物ではないからこれをパクっても著作権侵害にはならない、ということですね。
ここは当たり前で、たとえばキティちゃんの設定(アイデア)は「赤いリボンを付けて洋服を着た猫の女の子」なわけですが、この設定に著作権が発生するとすれば、誰も赤いリボンを付けて洋服を着た猫の女の子を描くことはできなくなるわけです。
— 海老澤美幸 ebisawa_miyuki (@ebisawa_miyuki) 2020年10月9日
それじゃあ文化の発展は阻害されてしまう。
この設定をもとに、皆さんが思い描く「キティちゃん」とは全く別の絵を描けば何の問題もないわけです。
— 海老澤美幸 ebisawa_miyuki (@ebisawa_miyuki) 2020年10月9日
他方「キティちゃん」に似た絵を描けば、それは著作権侵害になり得ます。
著作権侵害かどうかは、あくまで「表現」が似ているかどうかの問題です。
調べていただくとわかりますが、今回問題となった同人漫画の表現(絵)は元ネタの表現(絵)と似ているとはいいがたいかと。
— 海老澤美幸 ebisawa_miyuki (@ebisawa_miyuki) 2020年10月9日
仮に同人漫画が元ネタの絵そのものをパクってれば、当然著作権侵害になり得ます。また、服などちょっと変えたとしても、似ていれば依然著作権侵害になり得ますのでご注意を。
確かにこれは面白い…
原告側の主張
複製といえるためには,何人も容易に原著作物のキャラクターを知ることができるもの,すなわち,その個性(本質的特徴)が顕れているものの利用であればよく,その判断,認識は,美術の専門家によるものである必要はなく,素人の第一印象でよい。原著作物の特定の画面に描かれた登場人物の絵と細部で一致することを要求するものではなく,その特徴から当該登場人物を描いたものであることを知り得るものであれば足りる。なお,誰が見ても原著作物の登場人物が表現されていると感得されるようなものであれば,どの回の,どのコマの絵を複製したものであるかを特定する必要はない。
裁判所の判断
一審被告らは,本件各漫画には原著作物のキャラクターが複製されている旨主張する。
しかしながら,漫画の「キャラクター」は,一般的には,漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって,具体的表現そのものではなく,それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものとはいえないから,著作物に当たらない(最高裁判所平成4年(オ)第1443号,同9年7月17日第一小法廷判決,民集51巻6号2714
頁)。したがって,本件各漫画のキャラクターが原著作物のそれと同一あるいは類似であるからといって,これによって著作権侵害の問題が生じるものではない。また,原著作物は,シリーズもののアニメに当たるものと考えられるところ,このようなシリーズもののアニメの後続部分は,先行するアニメと基本的な発想,設定のほか,主人公を初めとする主要な登場人物の容貌,性格等の特徴を同じくし,これに新たな筋書きを付するとともに,新たな登場人物を追加するなどして作成されるのが通常であって,このような場合には,後続のアニメは,先行するアニメを翻案したものであって,先行するアニメを原著作物とする二次的著作物と解される。そして,このような二次的著作物の著作権は,二次的著作物において新たに付与された創作的部分について生じ,原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じないと解するのが相当である(上記最高裁判所平成9年7月17日判決参照)。そうすると,シリーズもののアニメに対する著作権侵害を主張する場合には,そのアニメのどのシーンの著作権侵害を主張するのかを特定 するとともに,そのシーンがアニメの続行部分に当たる場合には,その続 行部分において新たに付与された創作的部分を特定する必要があるものと いうべきである(なお,一審被告らは,東京地裁昭和51年5月26日判 決(判例タイムズ336号201頁)に基づいて,登場人物等に関しては, 登場シーンを特定する必要はないという趣旨の主張をするが,上記最高裁 判所判決に照らし,採用することはできない。)。
後でじっくり精読します。とりあえず以下続報…