過去にバレンタインデー時期の投稿を逃し続けてきたネタがありました。題して「口噛みチョコレート」…イメージ的にはあさりよしとお「るくるく(2001~2009年)」のこの場面ですね…
あとこの辺りの「口からドロっと」系。
- もちろん発想の源泉は新海誠監督映画「君の名は。(2016年)」に登場する「口噛み酒」。売れる作品にする為、スタッフが新海誠が用意した元ネタを精査する過程で「むしろセールスポイントとしてはマイナスかもしれないけど、これを抜いたら新海誠映画出なくなってしまう」という理由で残されたというエピソードがある。確かに作中重要なアイテムではあったけど、アレそんなに新海誠作品を象徴する重要要素だったの?
とはいえもちろん、その口噛み酒やヒロインの母が「免疫機能が暴走する病気」に掛かった時、病院での専門的検査を徹底して拒絶したエピソードに絡め「宮水家の身体交換能力はおそらく何らかの形で生化学(biochemistry)的技術に立脚している」と推察してハル・クレメントの「20億の針 (Needle、1950年)」「一千億の針(Through the Eye of a Needle、1978年)」、ジェームズ・テプトリー・Jr.の「たったひとつの冴えたやりかた(The Starry Rift、1986年)」、 さらには谷川流「(2003年〜)」に登場する「タイムトラベラー」朝比奈みくるの時間跳躍技術(生化学的要素の示唆はこちらでもあった)に絡めた論考を展開して散々アクセス数を稼がせて頂いた立場からすれば是非もなしである(その節はお世話になりました!!)。
もう一つが「岐阜の手づくりチョコレート需要」。「君の名は。」のヒロイン三葉は飛騨の山岳地帯に住んでいる設定だが、不思議と同じ岐阜を舞台とする作品の登場女性が「チョコレートをカカオ豆から作りたい」と言い出すケースが多い(後述)。大抵は思いつくだけで諦めてしまうが、実はその夢を叶えるキット自体は普通に通販されている。ただしもちろん莫大な労力を必要とする上(ただひたすら摺漕ぎで剃り続ける)どんなに頑張っても舌に当たるザラザラ感が消えないという。
そもそもチョコレート菓子の普及自体が産業革命の落とし子だったのだから、こればっかりは仕方ない。18世紀から既にカカオ豆からカカオバターを絞り出す機械式ミルが水力で稼働する様になり、それが次第に蒸気機関へと置き換えられて大量生産が可能となる一方、カカオパウダーとカカオバターを分離する製法、アルカリ処理でカカオの苦味を和らげる製方、ミルクを混入して口当たりを良くする製法などが次々と発明され、一気に現在我々が知るチョコレートの体裁が整ったのだった。
だがもしさらなるイノベーションの積み重ねによって「摺漕ぎ不要で、かつただひたすら噛み砕き続けるだけで市販レベルのきめ細かくて口触りの良いチョコレートの原料となるカカオ豆」が市販される様になったとしたら?
そのままではナイフも通らないほどスジだらけだった100g\168円のアンガスビーフに、ネットでかすった朧げな情報を元に、刻んだマイタケをまぶして冷蔵庫で8時間ほど寝かせて焼いた。驚くほど柔らかく化けて味も損なわれず最高。善なるインターネットよありがとう。
— なかのひと的な2 (@devergnodee2) 2021年2月9日日本調理科学会大会での研究発表記録があった。いろんなキノコで試した研究すばらしい。
— なかのひと的な2 (@devergnodee2) 2021年2月9日
キノコプロテアーゼを利用した肉軟化のための基礎的検討
伊藤 直子, 山崎 貴子, 岩森 大, 堀田 康雄, 村山 篤子https://t.co/vm2DqC7oTw
要するに過去の自分がそういう事を考えていたメモが最近、再発見された訳です。ところが時は流れ、今このネタを披露したら人々が連想するのはむしろアリ・アスター監督のホラー映画「ミッドサマー(Midsommar, 2019年)」となったのでした。
内容的にはまさしく21世紀の「ウィッカーマン(The Wicker Man,1973年)」という感じ。こちらはクリストファー・リーの爽やかな演技が印象に残る怪作…
- ちなみにこの映画、アリ・アスター監督の手に回ってきた時は既に「スウェーデンを舞台とするホラー映画」とまで決まっていたそうである。もしかしたら南部ゴシック文学の伝統が「The Texas Chain Saw Massacre(1974年)」を生んだ様な流れで、誰かが新ジャンル開拓を志向したのかもしれない。
実際「君の名は。」が海外で封切られていた時期、外国人ファンの間で「この物語の舞台を外国に移すならどこか?」で盛り上がり、最優秀候補に残ったのが「アイルランド(ケルト人ドルイドの末裔VSダブリン)」と「スウェーデン(ヴァイキング・シャーマンの末裔VSストックホルム)」だった。
横溝正史は「津山三十人殺し(1938年)」のあった岡山県を舞台に「本陣殺人事件(1946年)」「八つ墓村(1949年~1950年)」「悪魔の手毬唄(1957年~1959年)」を執筆し、吾峠呼世晴「鬼滅の刃(2016年~2020年)」の世界観は(ファンタジックな伝承と陰惨な猟奇殺人が交錯する)柳田国男「遠野物語(1910年)」と結び付けて語られる事が多い。そういう雰囲気を備えた独特の土地柄というのは確かに実在するのである。
— あきまんPLAMAX「GODZ ORDER」神翼騎士団 (@akiman7) 2020年10月31日
ごくさりげない #鬼滅の刃 コラボ…かもしれない。遠野物語っぽい要素もあるよね鬼滅。#遠野市立博物館 #炭焼き https://t.co/EAl1fE0Wne
— うさこ村長 (@usako73678703) 2020年10月23日実家に帰ったら父が鬼滅の刃と遠野物語の関連性を1時間くらい喋り続けてました。
— のどり (@nodori1009) 2020年12月4日
楽しそうでよかったです。ちなみに外国人ファンの方が弁えているが「想い人に自分の体液入りの食べ物を食べさせる/飲み物を飲ませる」ネタ自体は赤城大空のラノベ「下ネタという概念が存在しない退屈な世界(2012年~,アニメ化2015年)」の方が先に映像化まで漕ぎ付けている。というかそれをギャグで流せる文化圏には、ああも完全ホラータッチでそれを描く事は出来ないというのが正解かもしれない(タブー感の重みが違う)。
それでは具体的に各反応を追ってみましょう…
米澤穂信「古典部シリーズ(2001年~)」の伊原摩耶花
>ミッドサマー
そんな商品があったら、もうこれは「彼氏(福部里志)を縛り付けて製造過程の一部始終を見せつけた上で(ただし、おそらく途中から恥ずさのあまり背を向けてしまう)目の前で最後の一片を飲み込むまで見守り続ける」まであり得ます。物語中で既にそこまで至る伏線が積み上げられているのですね。
- 中学3年生の時に渡そうとしたチョコは「完全な手づくりではないから」と拒絶される。それで翌年は「カカオ豆から作る」と決意する(上掲理由で挫折)。
- 高校1年生の時はベルギー製の高級食材を手製の精巧な型に流し込んで女性の胴回りくらいある大判の物を用意したが、砕いて隠されてしまう。
- 後に「砕いて隠した」事が発覚。彼氏の妹の証言によれば「しばらく「御免なさい」しか言えない可哀想な生き物を続けた後に「卒業まで御前に一人で過ごせる放課後と休日はないと思え」と宣言されてしまった」との事。
このシリーズ、「事件の解決そのものが最優先課題ではない」日常ミステリー系の特徴を最大限生かして様々なジレンマを張り巡らせて推理の難易度を上げてくる一方、例えば推理中における「そのチョコレートを隠すには(そういう経緯もある)チョコレートを(それでも)砕くしかなかった」事実が発覚する瞬間などに猟奇殺人事件並の衝撃を読者に放ってくるのが特徴。その発想の大源流は北村薫「円紫さん」シリーズ(1989年~)にも見受けられるとはいえ「後発の強みで相応に洗練させてきてる」くらいは言えそうですね。
そんな商品があったら、片思いを拗らせた彼女は(朧げな記憶だが「カカオ豆からチョコレートを作ろうとして諦める」エピソードすらあったかも)必ず通販で買って完成させ、想い人の畑耕作に食べさせようとする。だがその試みは発覚し、チョコレートは無残にも砕かれるどころか踏み躙られる(まぁ基本、ギャグタッチの作品なのである)。
それにつけても荒川弘「銀の匙 Silver Spoon(2011年~2019年)」連載は終わってしまうし、杜康潤「孔明のヨメ(2011年~)」も荘園経営編が終わって戦乱編に突入するなど農業系コンテンツの凋落が著しい。
宮原るり「恋愛ラボ(LOVE LAB,2006年~2019年)」のヒロイン達
≦ミッドサマー
こういうライト感覚のコメディにまで「想い人に自分の体液入りの食べ物を食べさせる/飲み物を飲ませる」Deepなネタが登場可能な雰囲気こそ、和製コンテンツの強み。
- 真木夏緒はカカオ豆からチョコレートを作ろうと試みた事があるほどの猛者なので、当然そんな商品があれば購入しようと考えるだろう。しかし親友の倉橋莉子に止められる(まぁ基本、ギャグタッチの作品なのである)。
- その倉橋莉子も気になって、想い人のナギに遠回しに「そんなのもらって嬉しいか?」と聞こうとするが、結局聞きそびれてしまう。実は既に自宅には通販で買ったキットが…(まぁ基本、ギャグタッチの作品なのである)。
- で、本当にそれを食べさせられるのは(棚橋鈴音の思い人たる)倉橋莉子の弟である倉橋蓮太郎だけに終わる。棚橋鈴音は怖くてその事実を打ち明けられずに終わってしまう(イケメンなので多分バレても気にしない)。
ちなみにこの物語、最終回直前がバレンタイン・デー・エピソードで終わっているので、これは(カップリングが定まった)翌年以降の逸話となります。
とりあえず、ざっと思いつくのはこんな感じですかね…
そう、岐阜人なら是非もなし?