以下の投稿では料理の世界において、こんな定式化を試みてみました。
- 「グローバリズム(Globalism、地球主義)」…普遍的無関心。最初から「料理そのもの」への関心に欠けており、それ故に「地域間文化差の温存」への配慮も存在せず、エントロピー経済学的にはただその消失(すなわち熱的死状態)への到達のみを志向する。「究極の自由は専制の徹底によってのみ達成される」ジレンマと組み合わせによって究極のニヒリズムを現出させる。
- 「リージョナリズム(Regionalism、地域主義)」…分散主義的執着心。御当地グルメや屋台食などにより地域間競争の活性化を企図する。エントロピー経済学的にいうと原則論的に「多様化や競争によりエントロピーを引き下げる」志向性を有するが(相互模倣などによる)競争内容の陳腐化などによって次第にその効力が発揮出来なくなっていくケースも多い。
*例えば1960年代の遺産たる「ドミグラスソース」「ホワイトソース」「濃厚ソース」はどんな料理もみんな同じ味にしてしまう。
- 「ナショナリズム(Nationalism、国家主義)」…中央集権的執着心。「フランス料理」「和食」といった正統派料理の追求を志向する。エントロピー経済学的にいうと原則論的に「統合と標準化によってエントロピーを引き上げる」志向性を有するが、実際には他の料理の技法を持ち込んだり、内部競争を活発化させたりして「エントロピーの引き下げ」を伴うケースも少なくない。
*例えばフランス料理人は味の個性に乏しいドミグラス・ソースを捨て、フォン・ド・ボーをベースにそれぞれが独自のブラウンソースを工夫する事で大幅なエントロピー引き下げに成功している。
「閉じた系(システム)においてはエントロピーが必ず増大する」とする「エントロピー増大の法則」は、しばしば「整理整頓された状態(秩序段階)から散らかった状態(無秩序段階)への移行」としてイメージされてきました。
エントロピー増大の法則 - 哲学的な何か、あと科学とか
しかし、ここではあえて真逆に「散らかった状態(各地域文化が全く統合されてない段階)から整理整頓された状態(文化統合の結果中央文化のみが残った段階)への移行」とイメージし、その過程全体を「グローバリズムの進行」として扱っています。その志向性は「地域間格差の偏在」を克服しようとする動きとして始まり、全ての格差の消失に成功するとその役割を終える(熱的死状態を迎える)と考える訳です。
*「グローバリズムの完成=熱的死状態」…ゴビノー伯爵やニーチェやレヴィ=ストロースは、その志向性をある種のニヒリズムと考え、徹底抗戦を誓った。
それではこの考え方、政治分野にも応用可能なのでしょうか
【北京=西見由章】中国が掲げる現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」に関する国際協力サミットフォーラムが14日、北京で開幕した。習近平国家主席は開幕式で演説し、一帯一路の建設を通じて「開放的で皆が利益を得るグローバル化を実現しなければならない」と自由貿易体制の推進を訴えた。また習氏は沿線国などに対して新たに総額8620億元(約14兆1000億円)の融資・援助を行う方針を示した。
習氏は演説で、一帯一路の建設が2013年秋の提唱後に「理念から行動に、青写真から現実に変わってきた」と強調。一方で、ロシアが主導する「ユーラシア経済連合」などを念頭に「既存のものへの対抗ではなく、戦略のリンクと相互補完を図るものだ」と述べ、関係国で根強い懸念の払拭に努めた。
さらに、協力と相互利益を核心とした「新型国際関係」を構築するとの従来の主張を展開。「中国は他国の内政に干渉したり、社会制度や発展モデルを輸出することはなく、ましてや無理強いもしない」と理解を求めた。
また習氏は資金面での支援強化に言及し、一帯一路をアジアインフラ投資銀行(AIIB)とともに支える中国独自の「シルクロード基金」に対し、1000億元(約1兆6400億円)の増資を行うと表明。さらに国家開発銀行と中国輸出入銀行による計3800億元の融資のほか、今後3年間で沿線国や国際機関に民生プロジェクト資金援助として600億元、緊急食料援助として20億元を拠出する方針も示した。
習氏は、14日早朝に弾道ミサイルを発射した北朝鮮には言及しなかった。
会議は15日まで。プーチン露大統領ら中国国外から29カ国の首脳や約130カ国の代表団が参加し、出席者は1500人を超える。一方、先進7カ国(G7)のうち首脳が参加したのはイタリアだけで、新興5カ国(BRICS)も首脳の出席は中露の2カ国にとどまった。
グローバリズム(Globalism) - Wikipedia
「グローバリズム」という語は1991年以後に使われるようになったが、歴史的には何度も見られた傾向である。
19世紀から1945年までの欧米列強による帝国主義・植民地主義もグローバリズムの一種であるが、3国以上の列強の勢力圏で閉じた経済活動を行うブロック経済であった。
英語では、イギリス世界(グロブブリテン)を中心とした世界構築という意味合いが含まれる。
最近はこうした用例における「(開放的で皆が恩恵を受ける様な)グローバリズム」は「メガ・リージョナリズム」と言い換えられるケースが多い様です。そもそも、どうしてもここでいう「皆」は加盟地域のみに限られるので「グローバリズム」の定義に当てはまらないのですね。
考えてみれば、実際の歴史上においてこの意味における「グローバリズム」を体現してきた実例なんてモンゴル帝国(1206年〜1634年)の様な遊牧民国家くらいだったかもしれません。
- 遊牧民はその存在そのものが軍隊的であり(遊牧や狩猟といった日常の営みが、そのまま集団的軍事訓練に直結)、先天的に完全に自立した活動が可能である(ある意味「生まれながらのゲリラ」とも)。ただし都市住民化が進むと次第にその能力を喪失し、他の遊牧部族に倒されてしまう。
*つまり支配部族としての彼らは「好きな時に好きな場所で都市住人をゲリラ的に襲撃可能な辺境民である状態」がエントロピー最小、「自らも都市住民に成り果ててしまい、襲撃する側から辺境民の襲撃を恐る立場に転落した状態」がエントロピー最大とイメージされる訳である。
*ある意味「秦の始皇帝による中国統一(紀元前221年〜紀元前206年)」なども、このプロセスで掌握可能かもしれない。
始皇帝 - Wikipedia*「前方後円墳国家における「ヤマト大王」雄略天皇の登場」や「フランス絶対王政における「太陽王」ルイ14世の登場」もそうだが、絶対君主なるもの、概ね「諸勢力の調停役」として台頭し(全ての対立が消滅した)一人勝ちの状態を達成する(あるいは達成しそうになると)自らが滅ぼされるものなのである。その意味では(一見真逆の立場に見える)織田信長やロベスピエールの最後もこれに含めるべきなのかもしれない。「恐怖政治による国家統一」は理論上「刑吏に全責任を追わせる形の処刑」で完成するが、それ故に最終段階において「(粛清を恐れる)刑吏の叛逆」を免れ得ないとも。
絶対王政/絶対主義 -
支配民族は軍事活動や治安維持に専念し、自らは農業や商業や工業といった地域経済に根差す生産活動に決して口を挟まない(治水工事や道路網整備といった大規模インフラ整備を指揮する事くらいはある)。
*近世における日本や英国の経済的発展もこれに似た状況(武家やジェントルマン階層が直接経済活動に従事する事の禁止)によって達成された感がある。*ある意味、こうした遊牧民族帝国の在り方は、今日の警備会社(必要な時に、必要な場所に、必要とされる状態で存在する機能のみを抽出した請負業)の先祖筋とも。当時はそれを実現するのに「高度の自立性」や「騎馬隊の機動力」が不可欠であり、騎馬民族はその役割を果たすのにうってつけだった。
*こうした「警備会社の先祖筋」の生き様は欧州においては「狡兎死して走狗烹らる」ジレンマとの戦いという側面を見せる事になる。例えば(中東やイベリア半島や東欧において「十字軍運動」遂行を王侯貴族から委託された)騎士修道会の歴史。テンプル騎士団やスイス傭兵はその全国に支部を有する立場を利用して為替事業を営んで蓄財に成功したが、そのうち前者は冤罪で全財産をフランス国王に接収されている。現地統合に成功してハンザ同盟に加わったドイツ騎士団(チュートン騎士団)も、その経済的成功を妬まれ「元雇い主」のポーランド諸侯と支配下諸都市に挟撃されて滅んだ。ポルトガルの騎士修道会はレコンキスタ完了後、リストラを恐れ「アフリカ十字軍」に着手。これが大航海時代の始まりとなる。
*ある意味「ノルマン貴族やヴェネツィアの栄光」も、その出発点においては「警備会社の先祖筋」という側面を有していた。そしてオランダやイングランドが設立した「企業の起源」モスクワ会社や東西インド会社も、実際には商人連合と彼らの交易の安全を守る軍事力で構成され、その軍事的庇護が不要となった段階で(雇い主たる国家から)解散を命じられている。
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国境も国民も安定してない。支配民族の軍事力の増減に伴って刻々と変貌。
*そもそも支配者と被支配者の関係も統治というより一時的契約という感が強い。要するに「国境」や「国民」だけでなく「主権」の存在すら不明瞭。近代国家の要件を何一つ満たしていないのである。
しかしながら「世界三大発明(紙・火薬・羅針盤)」の登場によって「遊牧民帝国の時代」はあっけなく終焉を迎えます。代わって台頭してきたのが主権国家、すなわち「大量の火器を装備して騎馬隊の密集突撃を粉砕する常備軍(火薬)」「広大な海域の制海権を維持する船団(羅針盤)」「これらの維持費を的確な文書行政によって賄う官僚団(紙)」の3点セットを備えた諸国の競合状態。ただしグローバリズムを標榜可能な国際協調体制構築からはかえって完全に遠ざかる展開に。
- (原則としてハプスブルグ帝国内の内戦だったにも関わらず)三十年戦争(1618年〜1648年)を終わらせたウェストファリア条約を仕切ったのはフランスとスウェーデンでオランダとスイスの独立が公式に認められる展開に。またその席上に商業革命(経済的軸足の欧州から大西洋沿岸地域への推移)を達成したイングランドの姿はなかった。
- 大北方戦争(1700年〜1721年)によって「バルト海の覇者」の称号はスウェーデンから帝政ロシアにバトンタッチ。そして外交革命(1756年)によってフランス王室とハプスブルグ皇室の歴史的和解が成立したが、外交の全てが国王の恣意的判断で動く欧州主権国家に団体行動は到底無理。結局(イングランドから経済的援助を受けた)プロイセン王国に翻弄されて終わる。そしてアメリカ独立戦争(1775年〜1783年)とフランス革命戦争(1792年〜1802年)とナポレオン戦争(1803年〜1815年)の時代にそのまま雪崩込む。
*欧州主権国家は「外交を王侯貴族の恣意的判断に委ねている限りまともな成果は得られない」なるコンセンサスが浸透した18世紀後半時点でその歴史的役割を終えていたとも。それに代わる「国民国家」は、これからの時代はもはや国民総動員なしには戦い抜けない事が明らかとなり、かつ産業革命の大量生産・大量消費を回す為にブルジョワ階層や庶民階層の消費に依存していった19世紀を通じて次第に定着していった。思うより境界線が曖昧なのが特徴。
- 復古王政時代を支えてきたウィーン体制は二月/三月革命(1948年〜1949年)によって崩壊。神聖ローマ帝国やオスマン帝国といった「時代遅れの主権国家」の各領内でナショナリズムが高まりイタリア王国とドイツ帝国が独立。こうした混乱が第一次世界大戦(1914年〜1918年)によって帝政ロシア、オーストリア帝国、オスマン帝国が地図上から消滅するまで続く。
- 第一次世界大戦を契機に国際連盟が結成されたが、まず提唱国だったアメリカが不参加。しかも世界恐慌(1929年)以降の混乱に翻弄され、第二次世界対戦(1939年〜1945年)を防げなかった。そして冷戦(1945年〜1989年)が始まり、それが終焉すると「アメリカ一強」の時代が始まる。
ここまで「グローバリズム」実現の間もなし?
もしかしたら中国は半ば本気でモンゴル帝国流の「グローバル経済圏」の復活を夢見ているのかもしれません。とはいえ中国が「警備員」役に徹するとは到底思えないのですが…