「紙の登場」は何を変えた?
今回の投稿の発端ば以下のポスト。
中世ヨーロッパは「遅れていた」とよく聞くけど、14世紀になってもバチカン図書館には2000冊の蔵書しかなかった……って話を聞くと、さすがに「うっそだろ、お前?」って感じる。
— Rootport🧬 (@rootport) 2023年9月3日
ちなみに、現代日本の小学校の図書室の平均的な蔵書数が約1万冊だそうだ。
比べるとイスラム圏の書籍熱はすさまじく、11世紀のバグダッドには推計で100軒以上の書店があったらしい。活版印刷以前の、人力で写本を作っていた時代にもかかわらず、だ。
— Rootport🧬 (@rootport) 2023年9月3日
イスラム圏ではどの町にも図書館があり、たとえば10世紀、コルドバのハカム2世の図書館には40万冊の蔵書があったという。
そりゃあ数学も科学も文学も発展しちゃうわけだよなぁ。
— Rootport🧬 (@rootport) 2023年9月3日
オスマン帝国を筆頭にイスラム圏では活版印刷に激しい抵抗があり導入が遅れるのだけど、人力による出版業がそれだけ発展していたことも背景にはあるのかもなあ。筆記能力はエリートの証明だったようなので。
— Rootport🧬 (@rootport) 2023年9月3日
キリスト教やユダヤ教では、神の言葉は預言者を通じて伝えられるものだと見なされた。一方、イスラム教ではクルアーンの言葉は「神の言葉そのもの」だと見なされた。さらに厳格な偶像崇拝の禁止によりカリグラフィが発達した……というあたりが、イスラム圏で写本熱が高まった理由のようです。
— Rootport🧬 (@rootport) 2023年9月3日
13世紀のパリには58の書籍商と68の羊皮紙業者が存在した……という記録があるらしいので、ヨーロッパ側の書籍文明・文化が完全に崩壊していたと考えるのも間違い。イスラム圏よりもヨーロッパのほうが、識字能力や筆記能力が(ちょっぴり)民主化していた。のかもしれない。
— Rootport🧬 (@rootport) 2023年9月3日
何千年も脈々と知の探求をしてきた人たちがいた……ってことを考えると、なんだか泣けてきちゃうよな。
— Rootport🧬 (@rootport) 2023年9月3日
中国では竹簡や木簡が古くから権威ある記録媒体とされた(※古代日本もそれを真似て木簡を使っていた)。紙はコスパ優先の権威のない媒体であり、儒教や道教の経典は竹に書かれる一方、辺境の宗教である仏典は主に紙に書かれた。そして日本は、紙に書かれた仏典を神聖で権威あるものとして受け入れた…
— Rootport🧬 (@rootport) 2023年9月3日
世界中の博物館で古文書を保存するための裏打ちに使われるほぼ唯一の素材が和紙であり、大陸間横断兵器の素材となるほどの紙を作った文化圏は日本をおいてほかにない。これほどまでに日本人が紙にこだわるようになった理由は、最初から権威ある貴重な媒体として入ってきたからかもしれない。
— Rootport🧬 (@rootport) 2023年9月3日
個人的には「日本スゴイ」はこっぱずかしいし控えたいのだけど、和紙はたしかにスゴイ素材であるようだ。中国で発明された紙を謎のこだわりと独自技術で抜群の品質にまで高めちゃった……って歴史、最高に「日本」を感じる。こいつら、いつも外から入ってきたものを改良してるな?
— Rootport🧬 (@rootport) 2023年9月3日
この本です。https://t.co/EzI06ZG0mC pic.twitter.com/PAnlwgM0kT
— Rootport🧬 (@rootport) 2023年9月3日
ちなみに、現存する世界最古の「印刷物」は日本にあります。奈良時代に印刷された『百万塔陀羅尼経』です。現代の同人誌を印刷する日本在住のオタクたちはこの文化を受け継いでいるわけですね(?)
— Rootport🧬 (@rootport) 2023年9月3日
イスラム圏から入ったきた製紙技術を、ヨーロッパで普及していた羽ペンでの筆記に適した素材へと改良して、製紙産業へと発展させたのはイタリア人らしい。権威ある文書には引き続き羊皮紙が使われた一方、イタリアの公証人たちは紙を使い始めたという。この辺りの歴史も最高に「イタリア」を感じる。
— Rootport🧬 (@rootport) 2023年9月3日
イタリア人は抜群に手先が器用で商売に明るい人たち……ってイメージがあります。ついでにメシも美味い。
— Rootport🧬 (@rootport) 2023年9月3日
フィレンツェを中心に中世のイタリアは毛織物産業が盛んだった。が、14世紀のペストによる人口減少で畑が牧草地に転用された結果、ブリテンが最高品質の毛織物を産出し、ヨーロッパを席巻するようになる。一方、イタリアは皮革産業や(輸入品の)シルクで儲けるようになった。柔軟!商売人!
— Rootport🧬 (@rootport) 2023年9月3日
この話のどこが面白いかというと、いまでも皮革製品で世界最高とされるものはイタリア産だって点です。グッチもプラダもフェラガモも、ぜーんぶイタリア。
— Rootport🧬 (@rootport) 2023年9月3日
ここに乱入。
中世欧州の出版物の点数が少なかったのは、羊皮紙が高価過ぎたからみたいですね。普通紙はまずベネツィアでオスマン帝国への輸出品として量産される様になり、そのベネツィアがレパント公益から締め出されると代替収益源として文庫全集出版に着手。 https://t.co/EecwbNcFEj
— Yasunori Matsuki (@YazMatsuki) 2023年9月3日
こちらの話ですね。ただし残念ながら当時は大航海時代の余波で欧州経済の中心が地中海沿岸から大西洋沿岸に推移していく時期でもあり、結局オスマン帝国への紙輸出も出版事業もオランダやフランスに奪われてしまう展開に。 https://t.co/OqjzQ8roAZ
— Yasunori Matsuki (@YazMatsuki) 2023年9月3日
ここで興味深い展開。①古代ギリシャ・ローマ時代の古典はまずイスラム圏に継承され、批判的注釈をつけられた。その最終完成型が「ガザーリーの流出論」。②欧州人はイスラム圏から古代ギリシャ・ローマ時代の古典を継承しつつ、そこからイスラム色を払拭しようとした(12世紀ルネサンス)。 https://t.co/ztlRgtzq48
— Yasunori Matsuki (@YazMatsuki) 2023年9月3日
③しかし「ガザーリーの流出論」はガザーリー主著の教科書化、マルブランシュによる再紹介を経てフランス絶対王政期に復活。スイス出身のルソーの思想に大きな影響を与える形に。https://t.co/zqxmkgibys
— Yasunori Matsuki (@YazMatsuki) 2023年9月3日
こういう観点に立つとルソーの思想の基底の一つとして確実に「ガザーリーの流出論」が存在し、これが「自然に還れ」を連呼する今日の環境テロリストらにも継承されているという話…https://t.co/kel8imIAi8
— Yasunori Matsuki (@YazMatsuki) 2023年9月3日
ところで「神の叡智自体は無謬だが、流出の過程で誤差が鬱積し、最後には正反対の悪まで現れる」としたガザーリーの流出論から「中央集権化や都市化が進むほど人類は神の叡智から遠ざかる。(スイス人の様に)小集落に分散しての生活に戻れ」としたのがルソーの自然原理主義。https://t.co/5ZATXUmCyq
— Yasunori Matsuki (@YazMatsuki) 2023年9月3日
ところが19世紀に入ると「そもそも観測行為そのものが誤差を伴う」とするガウスの誤差関数が登場。20世紀に入るとさらに「そもそも観測対象自体が確率分布的に存在している」と考える「平均と分布」モデルへと推移しました。https://t.co/PgBH5GDxSi
— Yasunori Matsuki (@YazMatsuki) 2023年9月3日
まあこれ自体は主要観測対象が単体(物理法則に従って唯一無二の軌跡を刻む天体)から集合(確率分布でしか把握出来ない生物や社会)に推移した当然の帰結。ある意味、こうした時代の流れについていけない人達がどんどん(ルソーの自然原理主義に執着する)環境テロリスト側に堕ちていく時代とも? https://t.co/IofntyHFzs
— Yasunori Matsuki (@YazMatsuki) 2023年9月3日
なおガザーリーの流出論がまだ有効と信じられていた時代、オーギュスト・ブランキが革命活動を(物理法則に従って唯一無二の軌跡を刻む)天体運動と同一視する「天体による永遠」を発表。しかしオイラーの公式e^iθ=Cosθ+Sinθiに含まれるネイピア数eと円周率πが無理数という事は……
— Yasunori Matsuki (@YazMatsuki) 2023年9月3日
そんな感じで以下続報…