諸概念の迷宮(Things got frantic)

歴史とは何か。それは「専有(occupation)=自由(liberty)」と「消費(demand)=生産(Supply)」と「実証主義(positivism)=権威主義(Authoritarianism)」「敵友主義=適応主義(Snobbism)」を巡る虚々実々の駆け引きの積み重ねではなかったか。その部分だけ抽出して並べると、一体どんな歴史観が浮かび上がってくるのか。はてさて全体像はどうなるやら。

【数学ロマン】「文化進化の数理」?

f:id:ochimusha01:20210517070215p:plain


これは面白そう…

 田村光平『文化進化の数理』序文

人工物がダイナミックに変化し多様化していく様子を見て「まるで生き物のようだ」と感じたことはないだろうか。それは、博物館で壺の文様の時間的変遷を見たときかもしれないし、郷土史の授業で道具や習俗がいかにその土地の環境に適応してきたかを学んだときかもしれない。あるいは、利用者のニーズに応えて機能を増やしていく携帯電話や、メールの相手に細かな感情を伝えるべく次々と生み出される「顔文字」を思い起こすときかもしれない。そして、こんなことを考えたことはないだろうか。「文化も進化するのではないか?」、「この世界にあふれる文化の多様性も、地球上に多様な生物を生み出した進化のメカニズムで、同じようにして説明できるのではないか?」と。答えはイエスである。実際に、「文化進化」とよばれる現象がある。そう、文化も進化するのだ。しかしなぜ、生物の進化と同じ「進化」とよべるのか? どこが「同じ」とみなせるのだろうか?

進化という言葉は、「集団中の遺伝的構成の時間変化」と定義される。複数の対立遺伝子が、時間とともにその頻度を変化させる。これだけである。それでは、文化進化とは何だろうか? これに答えるためにはまず「文化」を定義しなければならない。文化の定義は無数にあるが、ここでは「遺伝子を介さない手段によって伝達される情報」として定義しよう。遺伝子を介さない手段とは、たとえばまねすることであったり、教えることであったりする。つまりここでは、文化をその中身や役割によって捉えるのではなく、情報としての側面を重視している。こうした前提に立てば、文化進化は「集団中の文化的構成の時間変化」として定義できる。要するに、ある文化(的情報)の頻度が時間とともに増えたり減ったりすることを文化進化とよぶのだ。「それだけ?」と思った方もいるかもしれない。けれども、生物の進化が、人類が把握できないほど多様な生き物を生み出したのと同じく、文化進化も、驚くほどの多様性を生み出す力をもっている。

文化の進化というと胡散臭い印象を受けるかもしれない。けれども、現代的な文化進化の研究は、1970年代後半に人類学者や遺伝学者によって始められ、40年ほどの歴史をもつ。そして、進化生物学から援用してきた堅固な数理的基盤を備えている。本書で紹介するのは、そうした文化進化の数理的基盤である。文化の研究に数学はなじまないように思うかもしれない。しかし、上述したように、文化進化の研究は、文化の情報としての側面に注目する。つまり、文化進化の数理は、情報の伝達についての数理だといえる。伝達に着目することで、あくまで一側面ではあるけれども、文化についての定量的な分析が可能になる。しかし、文化進化の研究が目指すのは、単なる文化の定量的解析ではない。上述した文化の捉え方が核としてあり、文化の伝播や変化のパターンが、どのような要因に規定されるのか、その解明を究極的には目指している。その適用範囲は言語学民族学から歴史学、考古学まで、文化を扱うあらゆる領域に及んでいる。

数学を使って研究することには、いくつかのご利益がある。数学を使うには、仮定や基準をすべて明示しなければならず、自ずと曖昧さを除いて議論ができる。もし不十分なところや現実に即していない仮定があったとしても、仮定や基準が明示されているため、どこが間違っているかを他の研究者が確認できる。つまり、それぞれの研究の限界や問題点がつまびらかになっている。これは、これまでの研究の蓄積に新しい知見を少しずつ積み重ねていく学術研究に望ましい性質だ。また、仮定や基準を明示しなければならないということは、誰がやっても同じ結果が出るということだし、さらにいえば、機械的に処理できるということでもある。文化データは、すでに一人の人間には把握できないほど大量に蓄積されている。その一部ですら、解析するには計算機に頼るしかない。そして、計算機で処理するには、仮定や基準を明示することが必要である。このように、数学を使うことは、文化の研究を、より大規模に、より高速に、より精緻に、より蓄積的に行うことにつながっていく。

文化進化の研究にはさまざまな手法が使われるが、本書では、それらを数理モデリングとデータ解析に分けて紹介していく。数理モデリングは、いくつかの仮定から、どのような結果(データ)が起こるのかを検証するために行われる。データ解析は、反対に、得られたデータから、どのような伝達過程が生じていたかを推測するために行う。「パターンとプロセス」という区分が、生物進化でも文化進化でも使われる。パターンとはデータに見られる規則性のことであり、プロセスとはデータを生み出す現象である。どのようなプロセスからどのようなパターンが生成されるかを検証するのが数理モデリングであり、データに見られるパターンからプロセスを推定するのがデータ解析である。

本書の構成

本書は、五つの章からなる。第1章では文化進化の基本的な概念と研究の歴史を概観する。第2章から第4章までは、それぞれ個人レベルの文化進化を扱う。個人レベルというのは、ある集団――村だったり、都市だったり、国だったりする――のなかで、個々の人々が文化を伝えていく場合である。こうした個体レベルの文化進化を、文化小進化とよぶ。第2章では、個体レベルの文化伝達についての基礎的な数理モデルを紹介する。基本的な概念を紹介したあと、文化伝達の経路のモデルを紹介する(2.5節)。経路とは、誰から誰に伝わるか――たとえば、親から子へなのか、友人同士なのか――を指している。伝達の経路によって、文化進化のダイナミクスは大きく影響を受ける。ここで取り上げるモデルは基本的なものではあるが、実際の文化現象を観察する際にも重要である。

文化のなかには、伝わりやすいものとそうでないものがあることが、直観的にもわかると思う。2.6節で取り上げるのは、文化伝達に関わる人間のさまざまな傾向――多数派の行動をまねやすいとか、権威者になびきやすいとか――である。こうした傾向は学習バイアスとよばれ、伝達の経路と同様、文化進化のダイナミクスに大きな影響を与える。

第3章では、さらに発展的な、ヒトの特異性に関わる数理モデルを扱う。最初に紹介するのは、変動環境下における、個体学習と社会学習の共進化である(3.1節)。情報の獲得、すなわち「学習」には、おおまかに分けて個体学習と社会学習がある。試行錯誤などの他個体との相互作用を伴わない学習を個体学習とよび、模倣などの他個体との相互作用を伴う学習を社会学習とよぶ。文化進化が起こるには、個体学習によって集団に新しい文化形質が導入され、社会学習によって伝達されることが不可欠である。とくに、ヒトの顕著な学習能力は、変動環境下で進化したとされている。こうした変動環境をいかにモデル化するかについて取り扱う。次に紹介するのは、非適応的な文化進化である(3.2節)。遺伝子と文化の利害は、常に一致しているわけではない。遺伝子の利益――残せる子どもの数――を減らすような文化が集団中に広まることがしばしばある。これを非適応的文化進化とよぶ。非適応的文化進化の研究は、ヒトに見られる非適応的行動を進化生物学の枠組みと矛盾しないかたちで説明するためにも、文化への高い依存性というヒトの特徴を説明するためにも重要である。もう一つ、ヒトの文化の特性として、その蓄積性があげられる。ヒトは、過去の世代が残した文化を継承し、それに新しい進展を加えることができるが、他の生物はそれができないと考えられている。

そして、文化に蓄積性があるからこそ、われわれは個人が一から始めたのでは決してたどり着けない水準の文化を現在達成できている。こうしたヒトの特殊性を説明するため、文化の蓄積性を扱う数理モデルが考案されてきている(3.3節)。最後に紹介するのは、ヒトの利他的な規範のモデルである(3.4節)。ヒトは自分が属する集団のために自己を犠牲にすることがあるが、このような規範が、集団間の戦いを通じて進化したとする仮説がある。こうした利他性もまたヒトに特異的だと考えられる性質の一つであり、関連する研究領域は経済学や心理学から進化生物学にまで及んでいる。

第4章では、数理モデルを活かした、データ解析について取り上げる。ここでは、現代の人間を対象とした心理学実験のデータ、動物の文化のデータ、先史時代の人間が残した考古遺物のデータをそれぞれ扱う。いずれの場合も、推定したいのはどのような学習バイアスが働いたか――たとえば、成功している他者を模倣するのか、多数派に同調するのかなど――である。文化進化の枠組みによって、データからより多くの情報を汲み出せることを見る。

こうした文化小進化に対して、集団そのものを単位とした集団レベルの文化進化がある。生物学では、ときとして「種」を対象とした解析を行うことがある。それに対応する集団レベルの文化進化を、文化大進化とよぶ。第5章では、この文化大進化を扱う。まず、集団レベルの文化進化の基本的な概念を概観するとともに、基本的な数理モデルを紹介する(5.1、5.2節)。集団レベルの文化進化研究では、数理モデリングよりもデータ解析のほうが研究事例が豊富である。多くの場合、文化大進化のデータ解析の目的は、文化の違いがどのような要因によって決まっているかを知ることである。そのため、解析の最初のステップでは、文化の違いをどう測るかを決めることになる(5.3節)。また5.5節では文化大進化の強力な解析ツールである、文化の系統樹についても取り扱う。これは、モノが祖先から枝分かれしていく関係を可視化したものである。さまざまな文化――たとえば写本や石器――も祖先型を模倣したものに改良を加えてつくられたものであるため、系統を構成する。進化生物学の系統解析の手法を用いることで、たとえば考古遺物や言語の系統関係を復元することができる(5.4節)。系統樹のメリットは、単なる類縁関係の可視化にとどまらない。系統樹の復元を通して集団に起こったイベントの順番を推定することで、社会の変化について一定の法則性を見つけることができる。その例として5.6節では、政治形態の複雑さと、家畜所有と母系社会の関係についての研究を取り上げる。最後に扱うのは、生物のかたちを解析する手法を、文化に適用した幾何学的形態測定学である(5.7節)。石器や土器といった考古遺物をはじめ、さまざまな物質文化のかたちを定量的に解析したい場合は多々ある。かたちの変遷や地域差は、文化研究の基本的な関心の一つであり、幾何学的形態測定学はそのための体系的な方法論を与えてくれる。

以上が本書のあらましである。すでに何らかの分野で文化の研究を手掛けている読者にとって、本書はその分野にはない見方を提供することができるだろうし、各分野が暗黙に置いている仮定を明示化する助けになるかもしれない。文化に興味のある理系の読者(学生)には、大学で学ぶ差分方程式や確率・統計といった数学的手法が、文化という対象にも有効なことがわかってもらえるだろう。もし、本書が文化進化のみならず、文化を対象とする研究分野の進展に貢献することができれば、それは望外の喜びである。

とりあえず、メモがてら…