吉田秋生「Lover's Kiss(1995年~1996年)」より
高校における日本史の授業「元禄文化の隆成」より「この世の名残、夜も名残、死に行く道を例えれば…これは「曾根崎心中」の有名な一節だが、この近松門左衛門の代表作は、その悲劇性で太平の世にドップリつかっていた元禄の世の大衆に大いに受けたんだな」
実際の元禄時代というのは以下の様な時代でした。
- 町人の若者達が身分制度浸透によって窮屈になる一方の日常生活への意趣返しとして「駈け落ち物」や「心中物」が流行した時代。これに連動する形で実際の心中事件も増えて社会問題となった。
- 「死に場所」を失った武士達が次第に武士らしさを喪失していく事に焦燥感を覚えていた時代。酒色に溺れたり喧嘩に巻き込まれて身を滅ぼす武士が絶えなかった。歌舞伎や人形浄瑠璃の人気演目が「曾我兄弟の仇討ち(1193年)」から「赤穂浪士討入(1702年)」に切り替わった時代でもある。
そういえば日本における「男色文学」の源流を遡っていくと、元禄時代のもう1人の巨匠井原西鶴の「男色大鑑(1687年)」や「武道伝来記(1687年)」に辿り着くのです。
- 当然、武士の間における男色の慣習はもっと古い時代から続いてきた。
衆道 - Wikipedia
サムライとヤクザ―「男」の来た道(氏家幹人) - 本・映画 BL以外の本 - しかし天下太平の訪れによって大阪が「天下の台所(日本経済の中心)」となり、現地豪商をパトロンに元禄文化が花開いた時代になって初めて「大阪人が共存を強いられる様になって久しい異邦人」武士の生態をあえて文学の主題として選ぼうという気運が起こってきたのである。
井原西鶴 - Wikipedia
とはいえ時代の流れはあくまで残酷。「江戸の価格革命」進行によって消費経済の主役は武家や僧侶といったランティエ (Rentier、地税生活者)から(大店の女将を中心とする)町娘へと推移していくのでした。
こうした流れの繰り返し20世紀末から21世紀初頭にかけての文化展開に重ねる向きも存在します。
Feh Yes Vintage Manga | banana fish by yoshida akimi
- 吉田秋生という漫画家は、国際SNS上の関心空間における投稿傾向を俯瞰する限り、まず最初は大友克宏の影響を色濃く受けた「吉祥天女(1983年~1984年)」「河よりも長くゆるやかに(1984年)」「BANANA FISH(1986年~1995年)」によって国外に知られた人だったのである。
Cynthia Tedy — the sight lies like angel eyes — Akimi Yoshida’s...
*逆をいえば初期の傑作「カリフォルニア物語(1978年~1981年)」、中期の傑作「YASHA-夜叉-(1996年~2000年)」「イヴの眠り(2004年)」辺りの知名度は比較的それほどでもない。
- そう、ほぼ確実に出発点は大友克宏の「AKIRA(1982年~1990年)」だったといえよう。それくらいこの作品は国際的事件だったのである。
そして、その分派として「メインヒロイン」奥村英二、リヴァー・フェニックスの影響を原作者も認めているアッシュ・リンクス、謎めいたロシア人戦士ブランカ、ショーターやシン・スー・リンといったアジア系キャラがハードな立ち回りをする「BANANA FISH」独自の人気を獲得していく。この流れを主導したのは、おそらくアジア系スラッシュ(日本でいう腐女子・貴腐人)層。女性ながら小池一夫原作・池上遼一作画のアジア的エロティィツク・バイオレンスにも魅了されてきた層とも微妙に重なってくる。SPACESHIP ROCKET, Spider-man manga by Ryoichi Ikegami
*リヴァー・フェニックス(1970年~ 1993年)…「Stand by Me (1986)年」主演や「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦(1989年)」における少年時代のインディ役を通じて知名度を高めたが若くして非業死を遂げてしまう。「太陽と月に背いて(1995年)」でアルチュール・ランボーを演じて「責めショタ」のイメージを勝ち取ったディカプリオや、遺作となった「The Dark Knight(2008年)」におけるジョーカーの演技で伝説となったヒース・レンジャーやと異なり、どうしても「カルト宗教団体に育てられたショタ好きガチホモ勢の囲い者」というイメージがつきまとうせいとも。しかしその悲劇性故にかつて「ヴェニスに死す(Der Tod in Venedig、原作1912年、映画化1971年)」とか好きな耽美派ゲイ人気を集めたという側面もあったりする。
リヴァー・フェニックス - Wikipedia
- ただし元々マイナーなコミュニティだった事もあり、「進撃の巨人(2007年〜、アニメ化2013年〜)」が登場するとこれにそっくりスライドしてしまう。大まかに分けて「エレン=奥村勇二×ミカサ=アッシュ×リヴァイ兵長=ブランカ」の系統と「エルヴィン団長=ブランカ×リヴァイ兵長=アッシュ」の系統の二種類のマッピングが存在した模様。
*またこの層は「DRAMAtical Murder(ゲーム2012年、アニメ2014年)」にも流れた。共通点は「ハードな展開(それもBL方面における)の追求」。 - その一方で「吉田秋生ファン層」そのものは「鎌倉恋愛シリーズ」と総称される「Lover's Kiss(1995年~1996年)」や「海街diary(2007年~)」へと傾倒していく。むしろ上掲の流れによってアクの強い層が抜け「少女漫画本命」といった側面が強まった感がある。
Western /occidental art influence in manga - Other page from Akimi Yoshida’s Umi Machi Diary...
実はこの投稿、2014年時点で執筆したものをベースとしてるんだけど、当時観測された動きの多くが過去形でしか語り得なくなってる事に驚きました。案外、契機となったのは2015年6月26日における「全米における同性婚合法化」だったりします。
この時感じた「世界が狭くなる感じ」って、実際にはこういう形(行き過ぎた投稿の大量削除)という形で現実世界に影響を及ぼしてたんですね。改めてその影響力の大きさを思い知った次第…なにせ「誰もが匿名ゆえに自らの発言に責任を負わなくて良く、原則としてみんな好き勝手に振舞ってるだけの世界」に訪れた急変。まさしくカール・マルクスいうところの「我々が自由意思や個性と信じているものは、社会の同調圧力によって型抜きされた既製品にすぎない」宣言そのものの展開?
ちなみに、こうした歴史的経緯から国際的に「進撃の巨人」コミュニティのHard Gay振りは他を圧倒し続けているという次第…