最近、勢いに任せて別ブログで哲学者ルネ・デカルト(René Descartes 1596年〜1650年)の悪口を書き殴ってしまいました。反省してます…
そういえばこちらのサイトでも以前、こんな投稿をしてます。論調の基底は同じ…
で、こうした一連の振り返りの契機となったTweetがこちらとなります。
アンケートで『からくりサーカス』に言及していた学生さんがいて、同作のネタの1つの、「デカルトのフランシーヌ人形」についてちょっと調べてみた。日本だと、澁澤龍彥、種村季弘といった人が広めたらしい、という情報くらいであまり詳しい話が出てこなかったのだけど、(続く
— 木島泰三 (@KijimaTaizo) 2020年5月7日
承前1)英語版wikiのFrancine Descartesに載っていた下記論文に伝説の初出、元ネタらしき話、その後の変形などが考証されていて、ためになった。
— 木島泰三 (@KijimaTaizo) 2020年5月7日
DOI: https://t.co/1ebpQDUFPi
MINSOO KANG, "THE MECHANICAL DAUGHTER OF RENE DESCARTES: THE ORIGIN AND HISTORY OF AN INTELLECTUAL FABLE"
(続く
承前2)
— 木島泰三 (@KijimaTaizo) 2020年5月7日
in 'Modern Intellectual History', Volume 14, Issue 3 November 2017 , pp. 633-660
伝説の有名なバージョンによると、まずデカルトはオランダ隠棲時代に大家さん宅の侍女ヘレナとの間に娘フランシーヌをもうけたが、彼女は5歳で死去しデカルトは悲しんだ(ここまでは史実)。(続く
承前3)悲しんだデカルトはフランシーヌそっくりの自動人形を作り、旅の伴にしていた。ある時旅先で乗船中のデカルトのカバンを怪しんだ船長がカバンを開け、中の人形が人間そっくりに動くのを見て、悪魔の仕業(ないし黒魔術)だと信じ、災から船を守るために人形を海に捨てた、という。(続く
— 木島泰三 (@KijimaTaizo) 2020年5月7日
承前4)上記論文によると、デカルトの(人間の)娘のエピソードが広く知られるようになったのはバイエ『デカルト伝』(1691年)から。その後、デカルトファンの修道僧Bonaventure d'ArgonneがVigneul-Marvilleという変名で出版した'Mèlanges d'Histoire Et de Litterature'(1699年)の中で、(続く
— 木島泰三 (@KijimaTaizo) 2020年5月7日
承前5)こんな話をしているという;「バイエ氏が『デカルト伝』の中で、この哲学者がオランダ在住時代にフランシーヌという娘をもうけた、と報告している件について、ある熱狂的なデカルト主義者が、私にこんな話を教えてくれた。(続く
— 木島泰三 (@KijimaTaizo) 2020年5月7日
承前6)いわく、その話はデカルト氏の敵たちがでっち上げたでまかせであり、実際のところはこうだ――デカルト氏は、多大な労力を費やして機械仕掛けの自動人形を作り上げた。それによってデカルト氏は、動物には魂などなく、(続く
— 木島泰三 (@KijimaTaizo) 2020年5月7日
承前7)むしろ非常に複雑な機械に過ぎないのであって、外部の物体が衝突し、その運動の一部を伝えると動く仕掛けになっているだけなのだ、という説を証明しようとしたのだ――と。(続く
— 木島泰三 (@KijimaTaizo) 2020年5月7日
承前8)そのデカルト主義者はまたこんな話も付け加えた――デカルト氏が自分の機械を携えて船に乗ったとき、船長が、その機械を入れているデカルトの荷物に興味を示し、それを開けた。(続く
— 木島泰三 (@KijimaTaizo) 2020年5月7日
承前9)船長は、まるで生きているように動く機械の動きに驚き、それが悪魔だと考えて海に投げ込んでしまったのだ――と」(同論文p.mgdの英訳からの重訳)
— 木島泰三 (@KijimaTaizo) 2020年5月7日
これが「フランシーヌ人形」伝説の初出らしい。つまり、(続く
承前10)もともとこのエピソードは、「デカルトに私生児がいたが、病気で死んでしまった」という話(書簡などからも事実とされている)を、デカルトの名声を貶めるための「偽りのスキャンダル」だと考えたデカルトファンの修道僧が、デカルトの「名誉回復」のために、(続く
— 木島泰三 (@KijimaTaizo) 2020年5月7日
承前11)「デカルトが自説の確証のために機械人形を作ったが、壊されてしまった」という「実話」を、デカルトの敵たちが改変して悪い噂に仕立てたのだ、という話にして広めようとした、ということらしい。同論文は、このエピソードの信憑性はこれ以上調べようがないとしつつも、(続く
— 木島泰三 (@KijimaTaizo) 2020年5月7日
承前12)「熱狂的なデカルト主義者からの又聞き」というのがいかにも怪しいのと、そっくりの伝承が少なくとも14世紀から存在していたという指摘を行って、話のいかがわしさを示唆している。(まだ続く
— 木島泰三 (@KijimaTaizo) 2020年5月7日
承前13)そのそっくりの伝承というのは、1373年に書かれた'Rosallio della vita'というキリスト教訓話集に収められたエピソードで、「万学博士(doctor universalis)」アルベルトゥス・マグヌス(1200頃-1280)が、(続く
— 木島泰三 (@KijimaTaizo) 2020年5月7日
承前14)「惑星の運行をモデルに……そして、悪魔的な技や降霊術(necromancy)は用いず」、30年の年月をかけて作り上げた、言葉をしゃべる金属の彫像を自室に置いていた。あるとき無知な弟子の修道僧(別の伝承ではトマス・アクィナス)がその彫像を見て、邪悪な偶像だと信じ壊してしまった。(続く
— 木島泰三 (@KijimaTaizo) 2020年5月7日
承前15)アルベルトゥスは「30年もかけて、この修道院では入手できない知識を使って組み立てたのに!」と激怒する。弟子はすみません、でもまた作ればいいのでは?と聞くと、「惑星の運行の関係で、もう3万年経たないと作れないのだ」と説明する、という話。
— 木島泰三 (@KijimaTaizo) 2020年5月7日
この話は、(続く
承前16)デカルトの伝説がフィクションだろうという話と併せてよく指揮愛に出されるらしい(あと澁澤龍彥はこの伝承も紹介しているらしい)。たしかに前記論文の言うとおり「卓越した知性が作り出した人造人間が、無知な人物の恐怖と迷信によって破壊されてしまう」という所がよく似ている。(続く
— 木島泰三 (@KijimaTaizo) 2020年5月7日
承前17)そういえば怪物を作ったフランケンシュタインもアルベルトゥスの本を読んでいたような…とか頭をよぎった。最後に、20世紀前半のイラストを("Descartes Wooden Daughter"で検索すると出てくる)。(了)https://t.co/QlqN3eIqqr
— 木島泰三 (@KijimaTaizo) 2020年5月7日
私がとっさに思い出したのは監督フリッツ・ラング、脚本テア・フォン・ハルボウのSF超大作映画「メトロポリス(Metropolis, 1926年製作/1927年公開)」で怪しげな狂科学者ロトワングが権力者ロトワングの命令に(表面上)従って稼働させるアンドロイド・マリア。
そういえばこちらも最後は「魔女」として火炙りにされちゃうんですね。「ほの昏い人形愛」といえばこういう話もありました。
ドルフロのプレイヤーは実際は
— Wallcroft (@M16A1Mod0) 2019年11月8日
こういう人の方が多いのですよ。 pic.twitter.com/p4HhPOYTc0
日本のオタクの間では20世紀末頃からちょっとした意識改革が進んできたんですね。
さて、こうした国際的意識の差は、これからどんな時代を育んでいくのでしょう?