諸概念の迷宮(Things got frantic)

歴史とは何か。それは「専有(occupation)=自由(liberty)」と「消費(demand)=生産(Supply)」と「実証主義(positivism)=権威主義(Authoritarianism)」「敵友主義=適応主義(Snobbism)」を巡る虚々実々の駆け引きの積み重ねではなかったか。その部分だけ抽出して並べると、一体どんな歴史観が浮かび上がってくるのか。はてさて全体像はどうなるやら。

ウルヴァリン(Wolverine)とは一体何者か?


狂乱状態で妻子を殺したヘラクレスが「殺人狂」、領土拡大の野望に取り憑かれて次々と在地有力者の娘を襲うテセウス大国主が「連続強姦魔」だとしたら、彼は一体どう呼ばれるべきなのでしょう。何しろ彼が大切にした女性は、高確率で宿敵から強姦の末に殺戮されたり、毒を盛られて自分の手で殺さざるを得なくなったり、決闘の最中に間違って殺してしまったりするのです。

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アメコミ界においては、1960年代にスーパーヒーロー物が復活を果たす(所謂Silver Age)。マーベルコミックスにおいて「スパイダーマン」「超人ハルク」「Xメン」を生み出したスタン・リー(Stan Lee、ルーマニア系ユダヤ人の血を引く原作者兼編集者)やジャック・カービールーマニア系ユダヤ人の東欧ユダヤ系の血を引く漫画家兼編集者)の登場も大きかったが、「ローマ史劇物(剣とサンダルの世界)」や「ヒロイック・ファンタジー・ブーム(剣と魔法の世界)」が大流行していて「英雄」を登場させやすかったのも大きかった。

http://thecommittedindian.com/wp-content/uploads/2015/05/Director-Frank-Miller-in-001.jpghttp://bookfans.net/wp-content/uploads/images/Alan_Moore_322.jpg?c3d821

そして1980年代に入ると「バットマンダークナイト・リターンズ(フランク・ミラー:Frank Miller)」や「ウォッチメン(原作アラン・ムーアAlan Moore)」といった決定的新機軸が登場。

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その境界期に当たる1970年代はアメコミ史上「ブロンズ・エイジ(Blonze Age of comic books)」と呼ばれる。実は販売方法の変更により大手配給会社のコミックの売上が大幅にダウンする一方でインディーズ・コミックが全盛期を迎えた迷走期間でもあった。
*日本文化史上においては、1990年代における「美少女戦士セーラームーン(1992年〜1997年)」や「新世紀エヴァンゲリオン(TV版1995年、旧劇場版1996年〜1997年)」、それと2010年代における「魔法少女まどかマギカ(2011年〜)」に挟まれた2000年代がこれに該当するとも。

そうした時代に生を受けたウルバリンの出自は、それはもう収拾が不可能なほど千々に乱れまくりなのでした。

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カナダ出身説…レン・ウェイン(原作)とハーブ・トリンプ(作画)が手掛けた「超人ハルク#180(1974年10月号)」の最後のコマに黄色と青のコスチュームを身に着けて初登場した時点では、その存在は全く曖昧でカナダ政府に所属する超人的なエージェントである事以外、何も明かされなかった。

  • 全体としては国境を越えてカナダ入りした超人ハルクをカナダ政府が迎撃しようとする筋書きの中で現れた。超人計画に夢中なのがアメリカ政府だけでないという事を示したかったとも。
    *そうした曖昧な状態ながら、いやそうした曖昧な状態ゆえにウルヴァリンは「Giant-Size X-メン#1(1975年5月)」にX-メンの"All New、 All Different" rosterに参加して以降、ベトナム戦争終了(1975年4月30日)以後のアメリカン・ポップカルチャーに数多く頻出した反権力アンチヒーローの仲間入りを果たす事になったのだった。

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  • 本格的にX-Menのメンバーとなったのは「Giant-Size X-Men #1(1975年5月)」で初登場したクラコア(krakoa、放射能によって意識と能力を得た無人島)との戦いの渦中において。
    *この異形のミュータントをセレブロによって探知したX-MEN達は逆にサイクロップスを残して全員捕縛されてしまう。そこでプロフェッサーXは新たなミュータントたちを世界中からスカウト。こうしてウルヴァリン、ナイトクロウラー、コロッサス、ストーム、バンシーらが集められて第二世代X-MENを結成し、新旧X-MENの共闘によりクラコアは宇宙に放逐された。

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  • こうして再登場した際、表紙を描いたジル・ケーンはうっかりしてウルヴァリンの頭巾を現在に伝わる特徴的な形で描いた。本編担当画家のデイブ・クックラムはそれを気に入り、彼の素顔を描いた際にその独特の頭巾の形が、彼の本来の髪型の反映に過ぎないという説を付け加えた。
  • *レン・ウェインは最初から「ウルバリンのトレードマークたる両拳の爪とグローブはアダマンチウム製で着脱可能」と規定していたが、ハーブ・トリンプだけでなくデイブ・クックラムもそれをずっと生やしっ放しとした。何故ならその爪こそが彼を規定する唯一の個性であり、それが着脱可能で誰の手にも嵌められるなら、その爪こそが本体という事になってしまうからである。そして「X-メン #98(1976年4月)」において初めて「ウルヴァリンの爪は身体の一部」という公式設定が明かされる事になる。

  • ナイトクローラーを好むクリス・クレアモント(原作)とデイブ・クックラム(原画)が執筆を担当した「アンキャニィ・X-メン #94(1975年8月)」に始まる新シリーズにおいて、ウルバリンは危うくチームから脱落させられる所だった。しかしクックラムに代わって原画を担当する様になったジョン・バーンは当人もカナダ人だったのでキャラクターを擁護し「カナダ政府がウルヴァリンの改造と訓練の失敗(所謂「ウエポンX」計画)によって被った損失のために彼を再逮捕しようとする」という設定を付け加えた。その結果次第に「ウルヴァリンは理不尽な過去と訣別すべく戦っている不安定なヒーロー」という読者の嗜好の変化に耐えうる強い設定が確立する事になる。

  •  一般にバーンが立ち去ってからもXメンに留まり続けたウルヴァリンの人気が爆発したのは、クレアモントとフランク・ミラーがソロで「リミテッドシリーズ・ウルヴァリン (1982年9月~12月:4分冊)」を発表したのを嚆矢として、クリス・クレアモント(原作)とアル・ミルグラム(原画)の手になる「キティ・プライド&ウルヴァリン(1984年11月~1985年4月:6分冊)」 、そのジョン・ビュッセマ版(1988年11月)、最後にはリー・ハマが引き継いでextensive runに到るクレアモントの新シリーズの存在が大きいとされている。もちろんピーター・デイビッドやアーチー・グッドウィン、エリック・ラーセン、フランク・ティエリ、グレッグ・ルカ、マーク・ミラーといった著名ライター、ジョン・バーンやマーク・シルヴェストリ、マーク・テシェアラ、アダム・クーバート、レイニ・フランシス・ユ、ロブ・ライフェルド、ショーン・チェン、ダリク・ロバートソン、ジョン・ロミータ・ジュニア、ウンベルト・ラモスといった著名画家の参入も大きかった。かくしてウルヴァリンは気づくと不動の名声を得た訳だが、その過程で彼がカナダ人という設定は必ずしも尊重された訳ではない。そもそも「カナダ政府のプロジェクトの犠牲になった事は必ずしも当人がカナダ人であった事を意味しない」訳だし、さらに最近は「カナダでのプロジェクトの黒幕は、その非人道性をアメリカ人の目から隠したかったCIA」とする企図まで見え隠れする。

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「最初から人間ではなかった」説…そう、アメリカ人の感覚からすれば「カナダ出身」というだけでは当人が人間だったという確証に欠けるのである!! そもそも「ウルヴァリン(イタチ)」というコードネームそのものが、彼の非人間的出自を暗示している?

  • 上掲の展開上、決して公表される事はなかったが「ウルヴァリン」というキャラクターの創造主たるレン・ウェインは、当初彼を「超種族ハイ・エボリューショナリー(High Evolutionary)によって人間の形態に進化させられたクズリの突然変異体」と想定していた。そして「超人ハルクウルヴァリン超人ハルク#180-181の復刻版)」に掲載されたデイブ・クックラムのインタヴューによれば、その設定は少なくとも彼の代までは継承されていたという。

  • 実はクックラムには、ウルヴァリンを「スパイダーマンの様ににたまたま超人的な強さと能力を持つ様になったに過ぎない十代後半の跳ね返りの若僧」として描きたいという企図があった。しかし既にジョン・ロミータSr.が覆面なしのウルヴァリンを毛深い40歳代のオヤジキャラとして描いていた事を知って諦めたのである。しかしジョン・バーンはどうしてもその事実を受け容れる事が出来ず、そのオヤジ顔を彼の父に当たる存在とされたセイバートゥース(SABRETOOTH:本名ビクター・クリード。性格は凶暴、特技は殺戮。明らかに精神を病んでおり、他人を殺さずには心の平穏が得られない。ウェポンX計画におけるウルヴァリンの同期で、そのせいかどうかは不明だが、野獣のような獰猛さ、戦闘能力および超回復能力など、能力的にウルヴァリンと被る部分が多い)に割り当てた。

  • 最終的にクリス・クレアモントジョン・バーンが到達した裏設定は以下の様なものだった。「ウルヴァリンの実年齢は60歳前後だが長命の為に外観的にはそう見えない。幼少時から父たるセイバー・トゥースに虐待されてきたが、青年期に入ると逃げ出して第二次世界大戦に従軍。しかしその過程で重症を負い、その回復過程で彼の治癒能力が骨格まで及ばない事が発覚。病院のベッドで十年以上過ごし、発狂寸前の状態に陥るも(これが彼のバーサーカー的激情の理由である)カナダ政府が彼に、全身の骨格を固体のアダマンチウムで置き換える(注入ではなく)と言うアイディアを持ちかける」。だがこの起源は「カナダ政府を擁護し過ぎ」と批判され、以降一度も使われる事はなかった。
    *時々、根拠薄弱な「韓国人の反日感情」など、所詮アメリカに憎みながら依存してきたカナダ人のアンヴィバレントな感情に比べれば「偽物」に過ぎないんじゃないかと思うことがある(何しろ最初に日本のMangaをアメリカに紹介してアメコミ市場の1/3が食い取られる事態の発端となったのも「ウォール街占拠事件」を主導したのも彼らだったのだ)。しかし「偽物」だからこそ関わる人々が熱狂によってその「欠陥」を補おうとする側面もあるからかえって侮れない。こういう話を国際SNS上で広めてるのもまた韓国系アメリカ人だったりするから、ますます侮れない。

  • クリス・クレアモントジョン・バーンは、ウルヴァリンのトレードマークたる両拳の爪をアダマンチウム注入の副作用と考えていた。しかし1990年代に入るとウルヴァリンマグニートーにアダマンチウム製の骨格を引き抜かれてしまい、本来の骨格が再生する過程で生来骨質の爪を備えていた事が明らかとなる。こうして「兄のセイバートゥース同様、ウルヴァリンは生まれつきただの人間ではなかった」という設定が公式に広まっていく事になる。

  • マーベル・コミック プレゼンツ(1991年4月)より始まった「ウェポンX」シリーズでは彼は「狩猟場で他の兵士を射って軍を除隊させられた放浪者(しかも長期間にわたって記憶喪失に苦しめられてきた)」と規定された。酒場で薬を盛られ、謎の人物「プロフェッサー」とDr.エイブラハム・コーネリアス、その秘書キャロル・ハインズによって運営されるカナダ政府の秘密施設「ウェポンX」へ連れて行かれた彼は全骨格にアダマンチウムを注入されて強化され(爪はこの時現われた)洗脳によって殺戮機械に変貌させられる。しかし程なく洗脳が解け、プロフェッサーやコーネリアス、ハインズら施設の人間のほとんどを殺害して施設を脱走。野生生活に戻ろうとするのだった。

  • ミニシリーズ「Origin(2001年)」に描かれたウルヴァリンの若き日の物語の舞台となるのは19世紀のカナダ・アルバータ州である。当時の彼は傷の再生に24時間を要する病弱な青年貴族ジェームズ・ハウレットだったが、母親の不倫に関する怒りから爪を生やし、記憶を失って不倫相手ローガンの姓を名乗る様になり、強靭な肉体を手に入れてゴールドラッシュ渦中の鉱山で働く様になった。当時自分を支えてくれていた女性を失うと一時期オオカミと共に森の中で暮らす様になったが、第一次世界大戦中はカナダ陸軍の兵士として働き、第二次世界大戦もノルマンディの戦いやマーケット・ガーデン作戦に参加してその過程でキャプテン・アメリカや諜報員のキャロル・ダンヴァースとニック・フューリー、兵士時代のベン・グリム、スパイのリチャードとメアリ・パーカー(ピーター・パーカーの両親)と遭遇したとされる(「Wolverine vol.2 #10(1988年11月)」によれば、その過程でシルバーフォックスという名のネイティブアメリカンの女性を愛し、1つのキャビンで暮らしていたが、セイバー・トゥースも手により彼の誕生日に強姦の末殺された)。

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「オーストラリア人」説…最近はすっかり「ウルヴァリン=ヒュー・ジャックスマン」というイメージが固まり、アメコミの世界でも定着しつつあるので、そろそろ新設定が生まれても不思議じゃない。少なくともヒュー・ジャックスマンのせいで「ウルバリンは背が低い」というイメージが既成事実として定着してしまった。
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「日本通外国人」説…「日本通外国人」はそれだけで強烈な個性なので、それ以上出自を問われない。これはある種のキャラクター・ロンダリングと呼べるかもしれない。

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要するに不老不死でしばしば記憶喪失になるので、あらゆる時代と場所に出没して毎回違うヒロインと恋をする(そして余計な設定を増やさない為に話の中で殺してしまった方が望ましい)という事なんでしょうね。

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ただ単にパルプマガジン黄金期に活躍した英雄ハルクの正当な(しかも強化型の)キャラクターというだけでなく、確実に同時代のマーベルを支えた英雄コナン・シリーズの影響も受けています。というか、その変化自在な出没の仕方はオリジナルのコナンそのものとも。

 

ところで米国コミック界の歴史区分たる「ブロンズ・エイジ(Blonze Age of comic books)」には「黄金時代」や「銀時代」の様な華やかな通史が存在しません。確かに絶望的な試行錯誤の繰り返しから、次世代にに通用する「ダークなバットマン」「一般人により近いスーパーマン」「ウルヴァリン、ナイトクロウラー、コロッサス、ストームといった第二世代X-Men」が生み出された時代ではありました。しかしそれは、裏を返せば多くの失敗もあった「迷走の時代」だったという事です。しかも何が成功で何が失敗だったかに関する議論も多種多様。実際、当時に由来する新し動きがある都度パラダイム・シフトが起こり続けています。

翻って日本の場合はどうでしょう。同人ゲームやWEB小説や自主制作アニメが活況を呈し、2010年代におけるブレイクを準備した2000年代前半がこれに該当しそうです。しかし、そうした事実関係は一切無視されて「セカイ系全盛期」なる「通史」で総括されている次第。

ニューアカ世代が1980年代後半にやらかした事の繰り返し。その結果、ブルーハーツ狩撫麻礼ソーカル事件も存在しない時間軸を成立させる事に成功したという次第。これもはや「絶対悪たる大人社会からの軽やかで知的な逃走」というより「究極の自由は専制の徹底によってのみ達成される」ジェファーソン流民主主義(連邦政府の介入を絶対悪として憎みつつ、家父長制度と奴隷制度を死守する自作農的立場)の世界じゃね?

まぁこんな事を語っていると、そのうち「国際正義が貴様の様な反知性主義者を狩り尽くせと命じている」と称する「自由の絶対守護者の皆さん」に討伐されてしまうのかもしれませんが、こんな立脚点から無理矢理2010年代について語ろうとしてもおかしな事にしかならないのも、それはそれで事実なのでは?